2020年11月02日 10:14 公開

宇宙飛行士、牧師、アメフトの監督……。11月3日の米上院選では、実に多様な経歴の人たちが激しく争っている。

ホワイトハウスをめぐる大統領選に世界の注目が集中しているが、同時に行われる連邦議会選もアメリカの今後を大きく左右する重要な選挙だ。

現在は与党・共和党が上院(定数100)で、野党・民主党が下院(定数435)でそれぞれ多数を占める。今回の選挙では任期2年の下院議員は全員、任期6年の上院議員は約3分の1の35議席が改選対象となっている。

上院は閣僚や連邦判事の指名承認、連邦予算の決定、条約の批准などアメリカの政策決定に重要な役割を果たす。共和党は現在、53議席でわずかな過半数を維持しているが、改選される複数の議席で現職が敗れる可能性が指摘されており、どちらの党が過半数を握るのか注目されている。


もしも、民主党が上下両院を抑える事態になれば、大統領選でドナルド・トランプ氏が再選された場合はそのあらゆる政策の実施を大きく阻止することができるようになるし、民主党候補のジョー・バイデン氏が当選した場合は、議会の支援を受けてその政権運営はきわめて楽になる。

共和党が上下両院で過半数をとればその逆の事態になる。現在のように上院と下院で多数党が分かれて、政治が混乱する可能性もある。

上院選で特に注目されている5つの州を、紹介する。その対立点の多くはアメリカ政治の主要論点でもある。

1.アリゾナ

カリスマ性のある元宇宙飛行士がトランプ政権に対抗

民主党候補マーク・ケリー氏(56)と共和党候補マーサ・マクサリー氏(54)は、2018年に死去した共和党重鎮ジョン・マケイン議員の議席を争っている。

通常の改選議席に当選した議員は来年1月に就任するが、空席を埋める補欠選挙の勝者は早ければ11月30日には初登院することになる。

それだけに、どちらが勝つかによって、トランプ氏の任期中の政権運営にただちに大きく影響することになる。

共和党は53議席の過半数を押さえているものの、そのうち少なくとも3人は穏健派で、時に党の方針に造反することがある。もしも民主党のケリー氏が上院議員となれば、共和党政権は来年1月までに政策を押し通すことが困難になる。

マクサリー氏は元空軍パイロットで、マケイン議員の空席を埋めるよう共和党の州知事に任命された。2018年にはアリゾナ州の上院選予備選で敗れており、世論調査では今回の勝利も厳しいとみられている。

元宇宙飛行士のケリー氏は、出馬前からギャビー・ギフォーズ元下院議員(民主党)の夫として高い知名度を得ていた。ギフォーズ氏は2011年に地元アリゾナの有権者との集会で乱射事件の被害者となり、頭部に重傷を負った。夫妻はその後、銃規制運動を全国的に強力に推進してきたことで知られている。

2. サウスカロライナ

強力なトランプ支持者の再選に危険信号

共和党重鎮のリンジー・グレアム議員(65)が、元ロビイストで州民主党委員長だった民主党新人ジェイミー・ハリソン氏(44)に、追い上げられている。

10月初めには両候補はほぼ互角で、接戦ぶりが多くを驚かせていたが、その後はグレアム議員がやや優勢を回復している。

それでも、かつては堅実な保守政治家で、小さい政府を推進し、外交ではタカ派だったグレアム議員が、このところはトランプ氏を全力で応援するようになっているため、多くの地元有権者がその変身ぶりに不満を抱いているという指摘もある。

サウスカロライナの上院議員選は当初、ベテランのグレアム議員が楽勝するものと思われていた。しかし、挑戦者のハリソン氏が3カ月間で5700万ドル(約60億円)という記録的な額の選挙資金を集めたのに対し、グレアム氏はその半分しか集められず苦境に立たされた。

上院司法委員会の委員長として多大な影響力を持つグレアム氏が、もしもハリソン氏に敗れることがあれば、とてつもない大番狂わせになる。そればかりか、この南部の州を代表する上院議員が初めて2人とも黒人という展開になる。

3. メイン

アメリカにおける中道の緩慢な死

東北部メイン州の有権者は、共和党の数少ない穏健派を落選させるかもしれない。スーザン・コリンズ議員(67)はかつて、上院でも特に支持者の多い議員の1人だったが、今では民主党の挑戦者、サラ・ギデオン氏(48)に劣勢を強いられている。

トランプ大統領の時代に中道保守でいることがいかに難しいか、コリンズ氏の苦境が浮き彫りにしている。

メイン州において、トランプ氏の人気はとことん低い。その州でコリンズ氏は、中道右派の有権者の代議員であり続けようとしているが、それは非常に難しいことだ。

2018年にはトランプ氏が最高裁判事に指名したブレット・キャヴァノー判事を承認した。キャヴァノー氏が10代だったときに同氏から性的暴行を受けたと訴える女性が、上院公聴会で証言した後のことだった。それだけに、コリンズ議員は穏健派のふりをしながら実はトランプ氏に忠誠を誓っているのではないかと、地元では非難が絶えない。

民主党から出馬したギデオン氏は、メイン州下院の議長。かつてコリンズ議員を支持していた人権団体や環境保護団体、全米家族計画連盟などが、ギデオン氏支持に転向している。

4. ジョージア

人口構成がついに民主党有利となるか

民主党は1992年以来、ジョージアで負け続けている。しかし、近年ではリベラル寄りの若者世代の転入が増えており、4年前の大統領選では民主党のヒラリー・クリントン氏が郊外で大いに善戦した。

今回は同州の2つの上院議席が同時に改選される。通常の上院選では、共和党現職のディスカウント・チェーン元経営者、デイヴィッド・パーデュー氏(70)と、元ジャーナリストのジョン・オソフ氏(33)が争っている。

オソフ氏は2017年の下院補選で敗れているが、今回の上院選ではパーデュー議員と互角に争っている。

各州2つずつの上院議席が同時に争われることはほとんどないが、ジョージア州では今回、その異例事態となっている。共和党のジョニー・アイザクソン前議員が2019年に健康上の理由から任期半ばで辞任したため、共和党からケリー・ロフラー氏(49)が後任に任命された。

アイザクソン前議員の議席を争うこの選挙は、補欠選挙のため予備選が行われなかった。そのため、複数の候補者が出馬している。

民主党からは、カリスマ性あふれる黒人牧師ラファエル・ワーノック氏が出馬。共和党からは、現職のロフラー氏のほか、ダグ・コリンズ下院議員(54)が出馬している。

ロフラー氏は今年春から夏にかけて、新型コロナウイルスに関する政府情報を利用して関連株を売却し利益を得たと批判され、インサイダー取引の疑いで証券取引委員会や上院の調査を受けていた。こうしたことからロフラー氏は、共和党支持者の間でも苦戦している。

ロフラー議員の議席については、単独過半数の票を得る候補が出ないまま1月に決選投票に至ると予想されている。

5. アラバマ

トランプ主義の将来は安泰

一方のアラバマ州では、共和党の新人が民主党現職の議席を奪還できそうな情勢だ。

伝統的にきわめて保守的な同州で、民主党現職のダグ・ジョーンズ議員(66)が2017年の補欠選挙で勝てたのは、相手の共和党候補が過去のわいせつ行為を糾弾されたからだった。

アラバマ州はかねて有権者の大多数が民主党に不信感を抱いており、今回の選挙で共和党が議席を奪還すると予想されている。

ジョーンズ議員は、複数の大学でアメフト監督を歴任し、トランプ大統領の後ろ盾も得ているトミー・タバーヴィル候補に世論調査で10ポイント差をつけられている。

たとえ大統領選がどういう結果になるとしても、アラバマ州などの保守的な地域が大変革しない限り、アメリカでトランプ主義は今後も健在だろう。

(英語記事 US election 2020: The five Senate races to watch