田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
地域政党の大阪維新の会(国政政党は日本維新の会)が主導した「大阪都構想」の住民投票は再否決の結果に終わった。松井一郎大阪市長は、維新の代表を辞任する意向を示している。維新にとっては大きな痛手であろう。
以前、この連載でも指摘したが、大阪都構想は経済の効率性を重視する政策であった。他方で既得権重視政策というものがある。これはいってみれば「効率と平等のトレードオフ」に近い。
効率性を追求することで損害を被る人たちが出てくる。そのときに仮想的な補償を行うとして、補償をしてでも便益が上回るのであれば、その政策を行うことが望ましい。「仮想的な補償」なので、本当にお金や現物給付などで補償を行うとは限らない。実際にはしないことが大半だ。
それでもこのような効率重視政策がどんどん行われれば、全体の経済状況が良くなると考えるのが、伝統的な経済学の思考法で、「ヒックスの楽観主義」とも呼ばれる。維新は、この効率的重視政策をどんどんやることを、大阪都構想というビッグバンで一気に実現しようとしたと考えられる。
ただしヒックスの楽観主義は、しばしば現状維持を好んだり、効率性よりも平等を重視したりする意見によって実現されないことがある。これを既得権重視政策という。
仮想的な補償を実際に行え、と主張する動きも事実上そうなるだろう。このとき、効率重視政策と既得権重視政策の対立をどのように調停するかの問題がある。率直に言えば、国全体でも地方自治体でも効率性を重視しないところは長期的には衰退は必然である。

もちろんおカネ不足で不況に直面し、優良な企業が倒産し、または働きたい人が働けないという非効率がないことが最優先される。だが、本格的に国や都市の潜在成長を決めるのは効率性である。こう言うと効率性至上主義に思えるだろうが、それは違う。既得権維持政策(平等、再分配重視)とのトレードオフが常に課題になることは変わらない。