2020年11月09日 12:09 公開

マリアンナ・スプリング偽情報専門記者、BBCニュース

セバスチャンさんの母親はイギリスの陰謀論コミュニティーの指導者の1人だ。セバスチャンさんはBBCのマリアンナ・スプリング偽情報専門記者の独占取材に応じ、母親が公衆衛生や家族の関係に与える影響について話してくれた。

私がセバスチャンと名乗る男性からの電子メールを受け取ったのは、ある晴れた秋の朝だった。

私は彼の名字にすぐにピンと来た。この前日、ロンドン中心部で開かれた新型コロナウイルスのロックダウン反対集会を取材していたからだ。セバスチャンさんの母親ケイト・シメラニさんは、この集会で演説していた。

それから1週間で天気は一変した。私は大雨の中、ロンドン某所の地下室でセバスチャンさんと向き合っていた。

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21歳の大学生で、専攻は哲学と政治学。セバスチャンさんは不安そうながら、決心を固めている様子だった。公衆衛生のため、そして愛する人が同じ道をたどってしまっている人たちのため、セバスチャンさんは自分が声をあげる義務があると話した。

3時間にわたるインタビューでセバスチャンさんは、母親がインターネットで新型ウイルスのパンデミックにまつわる偽情報を拡散することで、大勢の支持者を集めた経緯を詳細に話してくれた。ケイトさんは新型ウイルスの存在を否定し、政府がジェノサイド(集団虐殺)を計画していると疑い、イギリスの国民保健サービス(NHS)をナチス・ドイツになぞらえる発言を繰り返している。

ケイトさんの発言は数万人の支持者に発信され、ほかにも多くのフォロワーを抱えるアカウントでも拡散される。一連の発言は、国民の健康を守るための情報の拡散を阻害している。一方でセバスチャンさんにとって、これは非常に個人的な物語でもある。

セバンスチャンさんにとって、陰謀論は子ども時代の子守唄のようなものだった。10歳か11歳頃から、YouTubeに投稿されている秘密の計画や「トカゲ人間」の動画を見せられて育った。

セバスチャンさんは小学校で優秀な成績を修め、全寮制の私立校へと進学した。家族と離れて暮らした結果、母親の根拠のない言い分と真っ向から対立することになった。

母親との関係は崩壊した。その悲痛な詳細を、セバスチャンさんは話してくれた。結局、17歳で家を出て、最近では母親とはテキストメッセージでしかやりとりしていないという。

「母は完全に(陰謀論の)虜なので、話をする方法がない」とセバスチャンさんは話した。

「全てが終わって(中略)母のあらゆる発言が忘れ去られて、彼女が予言していた『世界的ジェノサイド』が起こらなければ、みんな忘れてしまうでしょう」

「でも、うちの家族で続くとんでもない事態は……それはいつまでも残ります」

人命が犠牲に

私は今年、ドナルド・トランプ米大統領を支持する「Qアノン(QAnon)」から新型ウイルスの偽情報まで、陰謀論が人々の生活に与える影響について数多くの取材をしてきた。

アメリカ・フロリダ州のブライアン・リー・ヒッチェンズさんは、新型ウイルスが「でっちあげ」だという偽の主張を信じていた。ヒッチェンズさんの視点は二転三転した。ある時は新型ウイルスは捏造(ねつぞう)だと信じ、別の時には、ウイルスは存在するが全く無害だと、あるいはインフルエンザよりは軽い病気だと思っていた。

ヒッチェンズさんと妻のエリンさんは、新型ウイルスに感染し入院するまでこれまで通りの生活を続けていた。ヒッチェンズさんは助かったが、エリンさんは亡くなった。

このニュース以降、セバスチャンさんを含む何千もの人が私に連絡してきた。みな、インターネット上の陰謀論のわなにはまった愛する人を失うのではないかと恐れていた。

論理的な議論を

私は常に、ロックダウンにはメンタルヘルス(心の健康)や教育、経済といった側面について理に適った懸念があると強調してきた。

陰謀論について報じることは、健全な政治議論を弾圧することではない。そして当然ながら、発展途中の科学について有効な議論というものもある。新型ウイルスについて、まだ多くのことが分かっていないのだから。

しかし私が見聞きしている話は、こうした議論とは全く違うものだ。

それはたとえば、世界中の人類にマイクロチップを埋め込んで、何十億人もを殺したり奴隷にしたりするというような、悪意に満ちた陰謀の話だ。あるいは、新型ウイルスが「存在せず」、保健当局は間違っているという全く非科学的な話だ。

陰謀論についてどうやって話す?

残念なことに、世の中にはこうした虚構にはまりこんでしまって、現実に戻れない人たち、中には過激派になってしまう人たちもいる。私のところにも、中傷や殺害予告が届いたことがある。

しかし、片足を踏み入れたばかりの人たちはどうすればいいだろうか? 

陰謀論の闇にとらわれてしまいそうな人と、暗い妄想を飲み込んでしまいそうな人と、どうやって話せばいいか――。繰り返しメールで送られてくるこの重要な質問に、私は答えようと努力している。

複数の専門家と話をすると、いくつかの提案が返ってきた。まず、その人を排除しないこと。問題にはできるだけ素早く対応すること。しかも、相手に共感する姿勢を示しながら。

パンデミックに不安を抱く人は大勢いる。陰謀論は、とてつもなく複雑に見える問題に簡潔な答えを提供する。そうすることで、相手に満足感を与える。

英オープン大学の心理学者ジョヴァン・バイフォード氏は、その人が持っている正当な心配をとことん掘り下げて、その人の気持ちを見つけてあげる戦略を教えてくれた。

陰謀論にどっぷり浸かってしまっていると、このプロセスは長引く可能性もあるという。

セバスチャンさんは、「相手と一緒に座って、主張が真実ではないと気付くまで何時間も議論するべきです」と語った。

「つぼみのうちに摘み取らないと、どんどん育ってしまう」

別の方法は、その人がいったいどこから情報を得ているのかを見つけることだ。YouTubeの動画で知ったのか(こうした動画はすでに検証され、偽情報だと明らかになっているかもしれない)、それともフェイスブックの陰謀論グループ参加者から得たものなのか。

専門家はさらに、事実や証拠を中立的な立場で提示するべきだと説明する。理性的な質問をすれば、立ち止まって考えたり、論理的で批評的な考え方をするよう、促したりできるだろう。そして常に、その人の奥深くにある心配に耳を傾けることだ。

私たちがセバスチャンさんとのやりとりを放送したその週、母親のケイト・シメラニさんのツイッターアカウントは、新型ウイルスに関する有害な偽情報を拡散したとして、ツイッターの規約違反で削除された。

BBCはケイトさんに連絡をとり、セバスチャンさんの言い分を伝えたが、それに対する直接の回答はなかった。代わりに、「私の視点では『陰謀論者』とは実際のところ、あなたを支配している人が信じて欲しいこと以外を信じている人のように思えます(中略)非常に不安になります」というコメントを寄せた。

セバスチャンさんの話は、世界中の人の注目を集めた。他の家族が自分と同じような苦しみから解放されることを願っていると、セバスチャンさんは言う。

(英語記事 How I talk to the victims of conspiracy theories