
2020年11月11日 15:53 公開
ブラジルの国家衛生監督庁(ANVISA)は9日、中国製の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を停止すると発表した。
ANVISAは、10月29日に被験者の1人に「重篤な有害事象」が起きたと発表。詳細は明かさなかったものの、この被験者が死亡したとの報道も流れた。
しかし治験を行っている研究所は地元メディアに対し、被験者の死は治験そのものとは関係がないと話している。
かねてこの臨床試験を批判してきたジャイル・ボルソナロ大統領は、ANVISAの決定は「自分の勝利」だと述べた。ボルソナロ大統領は、このワクチンの中国との関連を非難し、完成してもブラジルでは購入しないとしている。
ブラジルは新型ウイルスの被害が特に広がっている国のひとつ。米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、ブラジルの感染報告は約570万件と、アメリカとインドに続いて世界で3番目に多く、死者も16万3000人近くに上っている。
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治験中断はブラジルだけ
中国の北京科学生物制品有限公司(シノヴァク・バイオテック)が開発しているこのワクチンは、臨床試験の最終段階に入っているワクチン候補のひとつ。
ブラジル以外でもインドネシアとトルコで治験が行われているほか、中国国内では緊急使用認可が出ており、数千人が接種している。現時点で、インドネシアとトルコは臨床試験を停止していない。
ロイター通信によると、インドネシア国営バイオ・ファーマは、このワクチンの治験は「スムーズに進行している」と述べている。
ブラジルでこのワクチンの治験を行っているブタンタン研究所のディマス・コヴァス所長は地元メディアに対し、治験の一時停止は被験者の死によるものだが、死因はワクチンとは関係ないと説明した。
コヴァス所長の主張は、サン・パウロ州の保健高官も支持している。
またコヴァス氏は、このワクチンによる有害事象は出ていないと話した。その上で、研究所はANVISAから治験停止について相談を受けておらず、今回の決定に「憤然と」していると述べた。
シノヴァクは10日、ブラジルでの出来事について同国と連絡を取っていると明らかにした。
声明でシノヴァクは、「ブタンタン研究所の所長は重篤な有害事象とワクチンは関係ないとの見方を示している。ブラジルでの治験は、同国の医薬品の臨床試験に関する基準(GCP)を厳格に守って行われており、ワクチンの安全性には自信がある」と述べている。
新型ウイルス問題が政治化
臨床試験が中断されることは珍しくない。9月には英アストラゼネカとオックスフォード大学が開発中のワクチンで有害事象が発生し、臨床試験が一時中断。数日後には安全に治験を継続できると判断された。
このワクチンをめぐっては、ブラジルでの治験でボランティアが1人死亡しているが、安全性の懸念はなかったとされている。
ボルソナロ大統領は、アストラゼネカ製のワクチンを好んでいると公の場で発言する一方、中国製のワクチンは購入しないと述べている。
BBCのケイティー・ワトソン南米特派員は、ブラジルでは新型ウイルス問題が非常に政治化しており、ANVISAの決定が科学的か政治的かについても、多くの人が疑問を抱いていると説明。
また、新型ウイルスを軽視するボルソナロ大統領にとっては、ブラジル最大の人口と富を抱えるサン・パウロ州のジョン・ドリア知事が逆の方向を示しているのも懸念材料だと報じた。
ドリア知事は他の州と同様に独自のロックダウンを展開したほか、シノヴァクの臨床試験を支持している。
ワトソン特派員によると、ドリア知事は2022年の大統領選に出馬するとみられているという。
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