清義明(フリーライター)

 横浜のカジノ誘致(カジノを含む統合型リゾート施設=IR)構想が転がり続けている。

 振り返れば、2014年の年頭の記者会見で、横浜市の林文子市長が初めてカジノ誘致に前向きな発言をして以降、足かけ7年近くになる。新型コロナウイルスの影響で、いったんこの動きに足踏みが見られたものの、横浜市は依然としてカジノ誘致に積極的な姿勢を崩していない。

 横浜商工会議所をはじめとする経済界はカジノ誘致に賛成の意向であり、市議会の自民と公明ももちろん推進派である。一方でこれに対する反対運動もじりじりと市民の支持を受けながら拡大し、続いている。

 建設予定地となっている山下埠頭に一番近い街は同市中区の新山下近辺である。現在、山下埠頭には巨大な実物大のガンダムを目玉とする「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の設置が、バンダイナムコグループと横浜市や港湾協会などの主導で進められている。

 すでに2004年には東急東横線が横浜高速鉄道みなとみらい線と接続し、山下埠頭にほど近い場所に元町・中華街駅も設置された。そんな新山下の地元の人たちに話を聞いてみると、地下鉄やガンダムとは違って、必ずしもカジノに諸手をあげて歓迎というわけでもなさそうだ。

 聞くところでは、この地域の若い人たちはどちらかというとカジノ誘致に賛成という人が多い傾向だが、高齢になればなるほど反対の声もあるとのこと。環境の変化や治安の悪化を不安に思っているのだろう。

 「カジノ誘致反対運動の方が店にやってきて、反対運動のポスターを貼らせてくれとお願いされることもある。そういうときは、社長はいないと言ってうまくごまかしちゃうんですけどね」と、笑って教えてくれたのは新山下で会社を経営する若手社長。もちろん、この人はカジノ誘致賛成派だ。「いろいろ議論はあるでしょうけど、手をこまねいているだけというのもね」

 現実に目を向ければ、横浜市の財政の将来はとてもバラ色とはいえない。特に少子高齢化の波はこの街を直撃する。市区町村単位では日本最大である横浜市の人口は約375万人(2020年9月現在)。これは都道府県別に見ても上から11番目の規模だ。ところがこの人口は今年をピークに減少に入ると言われている。中でも深刻なのは税収につながる生産年齢人口の減少だ。

 約2・4人の生産年齢人口が税収を納めて1人の高齢者の社会保障をカバーするのが2020年だとすれば、これが2050年には1・5人の税収によって1人の高齢者を養う社会になる。その負担はざっくり1人あたりで言えば60%増だ。

 この数値は全国の少子高齢化のスピードと比べると緩やかとは言えるものの、すでに横浜市は長年積もりに積もった3兆円超の借入金に悲鳴を上げている。そのためにこれまであの手この手で企業誘致や産業招請、展示場や学究施設やコンサート会場のような娯楽施設の計画を実施し、さらには横浜港に面した「みなとみらい地区」の土地売却などを進めている。しかしそれでもまだ足りない。

 いかに横浜市財政が厳しいかは、いまだに公立中学校で給食が実施されていないことでもよく分かる。こうして今後もしわ寄せは市民に押し付けられることになってしまいそうなのだ。

 他の地方自治体であれば、インバウンド(観光目的の訪日外国人)需要を追い風にしていくための施策もあるのだろう。だが、観光都市としての横浜には弱点がある。それは横浜のそもそもの成り立ちに由来する「歴史」の不在だ。

 「横浜の歴史には近代しかない」と言ったのは横浜の下町を愛した評論家、平岡正明氏だ。幕末の動乱の中で、いわば出島のような人工都市を中核にできた横浜には、残念ながら海外から人を誘致するような魅力のある歴史遺産や文化施設が欠けている。近代だけの150年が圧縮された横浜の歴史遺産は、日本人にはモダンでレトロな魅力となるだろうが、海外の人たちからすれば自国のどこにでもある日常風景である。
IRの建設候補地として有力視されている山下埠頭=2014年10月、横浜市中区
IRの建設候補地として有力視されている山下埠頭=2014年10月、横浜市中区
 横浜市が観光の目玉にしている明治のモダンな洋風建築も、上海にもシンガポールにも香港にもヤンゴンにもカルカッタにも、横浜の数倍の規模で今でも立ち並んでいる。アジアのグローバルな視点から見ても、観光地としては劣るのだ。

 そのために横浜の観光は国内需要の日帰りがもっぱらだ。日本全体のインバウンドに占める割合はなんと1%未満。インバウンドの実数からしても東京は横浜の27倍、大阪は15倍の集客をしている。要するに横浜はインバウンド需要をまったく取り込めていない。

 元来、横浜は外国人のためにつくられた街であった。幕末と戦後の占領期、日本の歴史にのこる激動期に外国人を受け入れて光を放ってきたのである。