田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に、日本をはじめとする15カ国が署名した。世界経済の3割を占める巨大経済圏の誕生というのが教科書的な見出しかもしれないが、内実はかなり物足りない。

 すでに日本が主導的な役割を担っている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に比べると、関税の撤廃については参加各国の既得権の保護が断然に優遇されていて、10~20年以上の長期にわたっての段階的な引き下げである。だが、中国は、アジア圏での多国間にまたがる「自由貿易」交渉をまとめ上げたと成果を強調するに違いない。それには冷めた対応が必要だと私は思う。

日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)などによる巨大な経済圏の実現を目指す地域的な包括的経済連携(RCEP)交渉の首脳会合が15日、テレビ会議方式で開催され、交渉から離脱したインドを除く15カ国で協定に署名した。参加国全体での関税撤廃率は品目ベースで91%となる。日本にとっては、貿易額が最大の中国、3位の韓国と初めて結ぶ自由貿易協定となり、国内総生産(GDP)の合計、世界人口のそれぞれ約3割を占める巨大経済圏がスタートを切る。


 自由貿易交渉の成功の目安とされる90%をクリアしているものの、先進国と新興国と発展途上国が混在する今回の交渉では、実現は長期間にわたり、その進捗(しんちょく)状況の今後は不透明だ。今が売れ時ともいえる電気自動車の部品や蓄電池などでは中国の抵抗が強く、事実上、関税撤廃の効果はない。

 また、中国の政治的統治の核心に触れるようなデータ情報の自由化に向けてのルール作りや、国営企業の優遇についても障壁は高いままである。相変わらず自国の裁量の余地を最大限残し、国際的なルールの構築にはまったく不向きな「大国」であることを中国は示しているともいえる。

 日本の保守層の中にはRCEPの署名に批判的な人たちがいるが、単に中韓が入る枠組みを感情的に嫌っているようにしか思えない。どこまで実効性があるのか疑問が多いのは確かだが、それでも日本がRCEPに入ることはアジア圏での経済上のルール作りを主導する上で重要だ。
オンライン開催されたRCEPの署名式に参加し、各国首脳らが映る画面の脇で手を振るベトナムのグエン・スアン・フック首相(左)=2020年11月15日、ハノイ(VNA=共同)
オンライン開催されたRCEPの署名式に参加し、各国首脳らが映る画面の脇で手を振るベトナムのグエン・スアン・フック首相(左)=2020年11月15日、ハノイ(VNA=共同)
 もし日本が加わらなければ、今まで以上に中国の「オレ様ルール」がアジア経済圏で幅を利かせる可能性が高い。日本のRCEPの発効を妨害することは、中国とおまけの韓国を利することにしかならないだろう。