
2020年11月17日 13:36 公開
アメリカの憎悪犯罪(ヘイトクライム)が昨年、過去10年間で最も多かったことが、米連邦捜査局(FBI)の16日発表の報告書で分かった。
FBIのヘイトクライム統計法(HCSA)に関する年次報告書によると、昨年の憎悪犯罪は7314件で、前年の7120件を上回った。また、7783件を記録した2008年以降で最多となった。
憎悪が動機となった殺人も昨年は51件発生し、過去最多となった。2018年と比べ2倍以上増えた。
昨年8月には、テキサス州エルパソのウォルマートでメキシコ出身者らを狙った銃撃事件があり、22人が殺害された。
アメリカでは2014年以降ほぼ毎年、ヘイトクライムが増え続けている。この問題に取り組む団体は、偏見や人種差別的な言論の拡大と関連があると警告している。
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カリフォルニア州立大学の憎悪・過激主義研究センターのブライアン・レヴィン所長は、「最近のヘイトクライム増加は、さまざまな被害者集団を狙った襲撃が急増しているだけでなく、重大な凶悪犯罪が前より広範囲に増加するという、これまでにない残酷な様相を示している」と米メディアに話した。
ユダヤ教徒や中南米系狙った犯行
報告書はヘイトクライムを、「人種、民族、家系、宗教、性的指向、障害、性(ジェンダー)、性自認」に対する「偏見を動機とした」犯行と定義している。
報告書の統計によると、宗教関連のヘイトクライムは昨年、前年比で7%近く増加。ユダヤ教徒やユダヤ教施設を対象とした犯罪は14%増えた。
中南米系のラティーノに対するヘイトクライムは527件で、2018年の485件から8.7%増加。2010年以降で最多を記録した。
憎悪・過激主義研究センターによると、エルパソのウォルマートで22人が殺害された事件は、FBIが記録を取り始めてから最悪のヘイトクライムだった。
人種への偏見が動機に
アメリカのヘイトクライムを対象者別にみると、黒人を狙った事件が最も多い。ただFBIは、件数は2018年の1943件から、昨年の1930件に微減したとしている。
人種や民族が動機となったヘイトクライムの被害者4930人のうち、48.5%は「黒人またはアフリカ系アメリカ人に対する偏見が動機となった犯罪の被害者」だった。
「白人に対する偏見の被害者」は15.7%、「ヒスパニックまたはラティーノへの偏見の被害者」は14.1%、「アジア系への偏見の被害者」は4.4%だった。
人権団体はFBI報告書の発表を受け、ヘイトクライムに関する報告と情報収集の仕組みを改善するよう求めた。
ユダヤ教徒の人権保護に取り組む名誉毀損(きそん)防止連盟(ADL)は、報道機関に向けた声明で、今回のデータから、「FBIにデータを提供する法執行機関が減っているものの、それでもアメリカで報告されるヘイトクライムの恐ろしい増加傾向」が明らかになったとした。
ADLのジョナサン・グリーンブラット代表は、「(各地の警察など法執行機関が)FBIのデータ収集にしっかり参加しなくては、ヘイトクライムによる影響やダメージがどれだけ厳しいものか、全体像を完全に測ることができない」と述べた。