新型コロナウイルス禍によって社会はあらゆる面でこれまでの常識や価値観が覆され、「新たな生活様式」が定着しつつある。最たるものは「働き方」だろう。長時間で苦痛を伴うラッシュ時の通勤からの解放、勤務時間という束縛、社屋や事務所の不要論といった大転換が起きている。

 もちろん、新型コロナ禍による経済的打撃は深刻であり、国力の低下まで懸念される事態だが、まさに「追い風」といえる分野がある。長年、日本が頭を抱えてきた地方創生だ。企業は都市部に事務所を構える必要があるのか、「テレワーク」が可能なら自宅はどこでもいいのではないか。この先、これらの概念が一気に広がるに違いないからだ。

 こうした中、まるでこの価値観の変革を予測していたかのような自治体がある。それは長野県立科町だ。

 東京から北陸新幹線でおよそ1時間、立科町の中心部は佐久平駅から車で30分ほど。道中、抜けるような青空と特産品の一つであるリンゴ園に広がる赤のコントラストを楽しんでいると、旧中山道沿にあるかつて宿場町として栄えたことを物語る古い建物が目に入ってくる。

 立科町は人口約7千人。高原地域を中心に、有名な白樺湖やスキー場など、魅力的な観光資源を有する。高度経済成長期やバブル時代は多くの観光客でにぎわったが、長引く不況の中で、圧倒的な知名度のある軽井沢で観光や避暑目的の人々の足は止まりがちになった。

 また、全国の地方の課題であり、立科町だけの問題ではないが、若い世代の進学や就職による流出が続き、少子高齢化が深刻化している。ただ、立科町はこの苦境を漫然と受け入れているわけではなく、若者のUターンや移住、地元産業の活性化など、あらゆる分野で対策に取り組み、その本気度が極めて高い。

 その一つが「タテシナソン」だ。元来、地域課題の解決や地方産業の活性化などをテーマに異分野の人たちがチームをつくって提言する「アイデアソン」という取り組みがある。「アイデア」と「マラソン」をかけ合わせたものだが、これを立科町が独自に実行性のあるものにしたのが「タテシナソン」だという。

 「アイデアソン」によってさまざまな提言がなされるものの、やはり具体的にそれを取り入れ、活性化につながるケースは少ない。そこで立科町は「リアルガチ」をキャッチフレーズに、実際に地元事業者に経営課題を出してもらい、大学生(高校生も含む)を中心に全国から参加者を募る。実用化することを前提としたうえで、売り上げ増などに寄与することも目的とした施策としてバージョンアップさせた。
かつて中山道の宿場町として栄えたことを物語る長野県立科町の街並み(同町提供)
かつて中山道の宿場町として栄えたことを物語る長野県立科町の街並み(同町提供)
 2018年2月に第1回目を実施した際は、白樺高原でソフトクリームなどを製造販売する「牛乳専科もうもう」が名乗りを上げた。近隣自治体の高校生のほか、関西や首都圏の大学生15人が参加。5人一組のチームが28時間(1泊2日)で、事業所などを訪問して実態を把握し、提言をまとめた。