君塚弘恭(早稲田大社会科学総合学術院准教授)


 今年も「ボジョレー・ヌーボー」が解禁された。1984年以来、出荷解禁日が11月の第3木曜日に設定されているので、今年は11月19日となった。

 今や、ボジョレー・ヌーボーの販売はフランスのみならず、米国や中国、日本など世界各地に広がっており、特に日本では、毎年11月になると、解禁がメディアを通じて宣伝され、その人気ぶりはフランス人も驚くほどである。

 日本でボジョレー・ヌーボーがかくも人気なのは、おそらく2つの理由がある。1つは、時差の関係で、生産地フランスに先駆けて解禁されることだ。実際に、そのおかげで、日本の消費者たちは、先進国の中で最も早くこのワインを味わうことができる。

 もう1つは、日本の食文化の影響である。日本では、旬のものを味わうという言葉があるように、季節と食を結びつける文化がある。毎年決まった季節に出荷される新酒であるボジョレー・ヌーボーは日本の食文化と結びつきやすかったのだろう。

 さて、日本で「ボジョレー・ヌーボー」と呼ばれるワインは、厳密には「ボジョレー・プリムール」と称される。フランスで生産されるワインは、原産地呼称統制制度(Appellation d’Origine Contrôlée)で生産地とワインの名称が結びつけられ、生産地域、ブドウの品種、最低アルコール度数、最大収穫量、栽培法、剪定法、醸造法、熟成法などについて厳密な規定があり、試飲検査を受けて、国立原産地呼称委員会(INAO)による認可を受ける必要がある。

 認可委員会の決定によれば、ボジョレー地区として決められた地域で生産されたワインがボジョレーワインであり、これは次の収穫までは「ヌーボー」と称することができる。

 その中で収穫の翌年1月までに販売されたワインだけが「ボジョレー・プリムール」を名乗ることができるのである。つまり、1月を過ぎても「ボジョレー・ヌーボー」ではあるが、「ボジョレー・プリムール」ではなくなってしまうのだ。

 ボジョレーワインが生産されているボジョレー地区は、ソーヌ川流域に位置し、最も歴史の古い「クリュ=デュ=ボジョレー AOC crus-du-beaujolais」、その周辺に広がる「ボジョレー=ヴィラージュ AOC beaujolais-villages」、比較的新しい南部の「ボジョレー AOC beaujolais」の3つに分かれている。

 1930年「ディジョン判決」の後、ボジョレー地区は、「ブルゴーニュ AOC Bourgogne」の中に含まれることになったのだが、その後、常にどこまでが「ブルゴーニュ」を名乗ることができるか論争の的となり続けている。

 例えば、1988年、INAOは「クリュ=デュ=ボジョレー」を構成する10の地区のうち、レニエ地区を除く9の地区については「ブルゴーニュ」と呼称することができることとした。

 このときの基準はセパージュ(ブドウのブレンド比率)であり、30%以内にガメ種の割合をとどめることを条件としている。このように、私たちが「ボジョレーワイン」として知っているワインは普遍的な存在ではなく、歴史的に作られてきたのだった。
フランス産ワインの新酒「ボージョレ・ヌーボー」が解禁され、イベント会場でボトルの栓を開ける人たち=2020年11月19日午前0時、東京都渋谷区
フランス産ワインの新酒「ボージョレ・ヌーボー」が解禁され、イベント会場でボトルの栓を開ける人たち=2020年11月19日午前0時、東京都渋谷区
 ブルゴーニュ地方でワイン生産が開始されたのは、ローマ帝国時代にまで遡る。現在のフランス共和国に属する地域には、帝国の属州がおかれ、現在のプロヴァンス地方を含むガリア・ナルボネンシスでは早くからローマの文化が持ち込まれてワインの生産と消費が行われた。