朴氏は会談後の囲み取材で「日韓首脳の新しい共同宣言を日本側に提案し、首相も前向きに応じた」と述べた。だが、日本政府側は「そんな話はなかった」と否定している。

 さらにはその1週間後、今度は韓日議員連盟会長かつ与党議員である金振杓(キム・ジンピョ)氏が菅首相との会談で「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の東京五輪招待を提案し、同意を得た」と述べたものの、これまた日本政府はこの発言を否定した。

 金振杓氏は東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相らとも会談したが、そこで出た話を菅首相との会見内容と話をすり替えていた。ゆえに真実としては、日本政府が示した立場こそが正しかった。そもそも韓国の情報工作機関のトップや一介の国会議員が日本の首相にそのような提案をする立場にはない。

 それ以前に、韓国の国家情報院は情報工作機関であり、本来そのトップの外国訪問は常に秘密にされる。それが今回は、訪日の前からメディアを通して報道させた。韓国側がリークしたのか、日本の政治家が書かせたのかは分からないが、何らかの意図を持って行われたのは間違いない。

 朴氏としては競争相手の徐氏の訪日を阻止する必要があった。そのため、あらかじめ新聞に書かせ「徐薫訪日」の阻止を企図したのではないだろうか。さらに言えば、朴氏としては韓日議連会長の金振杓氏より先に菅首相に会う必要があり、このため旧知の二階氏を利用したと考えられる。

 なぜ韓国政府高官たちは菅首相への詣を競い合ったのか。最大の原因は、筆者の本サイトへの寄稿(11月11日掲載)でも触れたが、北朝鮮の労働新聞1面トップ記事(11月1日)にある。この記事には、金委員長が朝鮮総連の「分会代表者(全国)大会」に送った「お言葉」が報じられている。朝鮮総連の記事が労働新聞1面トップに掲載されるのは極めて異例だ。

 韓国内では聯合ニュースと中央日報の記者がこの記事に注目した。記者たちはこの「お言葉」の中から「総連は、日本国民との友好親善に努めよ」の表現に目を付け「日本と北朝鮮が秘密接触をしているのではないか」と関心を寄せたのだ。

 朴氏と徐氏は北朝鮮問題の担当者だ。そうした韓国メディアの報道に衝撃を受け、日朝の秘密接触を警戒しているはずである。もし知らなかったら2人とも責任問題だからだ。一応、東京の韓国大使館に確認した上でその事実はないとの報告を受けつつも、当事者として不安は尽きない。

 このため、2人とも訪日を計画したが、もし菅首相に会えなければ「何のために行ったのか」と恥をかき、批判されてしまう。だからこそ朴氏は二階氏を動かし、首相面会の約束を取り付けた上で新聞報道をさせ、徐氏を出し抜いたのではないだろうか。

 実際、今回出し抜かれた徐氏は朴氏の訪日が成果なく終わったことを強調するために、自身の訪日の可能性を示している。こうしたてん末はソウルでは日常茶飯事であり、政治的駆け引きの寸劇と言うしかない。まさに「韓流ドラマ」さながらの世界である。

 今回の韓国政府高官と政治家の訪日劇は、韓国が日朝の接触と正常化について、いかに神経をとがらせているかを十分に物語る。さらに言えば、これは韓国政府が北朝鮮と全く連絡が取れていない現実もさらけ出している。

 南北間のホットラインが機能しているならば、日朝の接触や金委員長の五輪訪日が心配な場合、北朝鮮に直接聞けばいい。それができないからこそ、政府関係者がこぞって日本になだれ込んだのである。
菅首相との面会を終え、記者団の取材に応じる韓国の国家情報院の朴智元院長=2020年11月10日、首相官邸
菅首相との面会を終え、記者団の取材に応じる韓国の国家情報院の朴智元院長=2020年11月10日、首相官邸
 こうした日朝間の関係変化に敏感に反応した韓国の反応を見るに、韓国の元徴用工問題解決や反日姿勢を変えるには、日朝関係改善や日朝正常化を推進したほうが確実かもしれない。

 はたして今回の「韓流政治ドラマ」は、もし日本が韓国を出し抜いて北朝鮮との関係改善や日朝正常化を進めれば、文大統領はメンツを失い、反日もしくは対日強硬策をとれない現実を日本に教えてくれることになった。