2020年11月28日 12:06 公開

イラン国防省は28日、イランで最も著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が、首都テヘラン近郊で暗殺されたと発表した。

ファクリザデ氏は、ダマヴァンド郡アブサルドで襲撃された後、搬送先の病院で亡くなった。

イランのモハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相は、ファクリザデ氏殺害は「国家によるテロ行為だ」と非難した。

西側諸国の情報機関は、ファクリザデ氏がイランが秘密裏に行っている核開発計画に関わっているとみている。

ロイター通信は2014年、西側外交官筋の話として、「もしイランがいつか核兵器を開発したならば、ファクリザデ氏がイラン製爆弾の父と呼ばれるだろう」と伝えている。

イランは、自分たちの原子力開発はあくまでも平和目的に限ったものだと主張している。

しかし最近では、イランが濃縮ウランの製造を拡大しているという新たな懸念が浮上している。濃縮ウランは、民生用の原子力発電においても、核兵器製造においても、重要な要素。

イランは2015年、イギリスやアメリカなど6カ国と核合意を結び、濃縮ウランの製造を制限すると約束した。しかしドナルド・トランプ米大統領が2018年に核合意から離脱を決めて以降は、イランもこの合意内容に抵触するようになった。

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車中の科学者に発砲と

イラン国防省は27日、「武装テロリストが、同省研究・イノベーション機関のトップ、ファクリザデ氏の乗っていた自動車を襲撃した」と発表した。

「テロリストとボディーガードの衝突の後、ファクリザデ氏は重傷を負い、病院に救急搬送された」

「残念ながら、医療チームの努力もむなしく、ファクリザデ氏は数分後に亡くなった」

地元メディアによると、襲撃犯は車中のファクリザデ氏に向かって発砲したという。

ファルス通信は先に、アブサルドの町で車両が爆発したと伝えており、「テロリストとみられる3~4人が殺された」という目撃情報を報じていた。

新たな地域紛争のリスク

イランのザリフ外相はツイッターで、「本日、テロリストがイランの著名な科学者を殺害した」と書いた。

「この卑劣な行為は、イスラエルの関与が強くうかがえるものだ。当時は、戦争を引き起こそうと必死の様子だ」と外相は批判し、国際社会に対し「国家によるテロを非難する」よう求めた。

イラン革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官は報復を表明。「核科学者の暗殺は、わが国の現代科学利用を阻止しようとする、実にあからさまな世界覇権の侵害行為だ」と批判した。

米中央情報局(CIA)ジョン・ブレナン元長官は、ファクリザデ氏殺害は「犯罪行為」であり、中東地域の紛争に火をつける「非常に無謀な」まねだと述べた。

ブレナン氏は一連のツイートで、ファクリザデ氏の死によって「犠牲者の出る報復行為と、新たな地域紛争のリスク」が高まると説明。

一方で、「外国政府がファクリザデ氏殺害を命令・実行したかどうか」は知らないとしている。

イランは長年、イスラエルと敵対している。イランでは2010~2012年の間に4人の核科学者が暗殺されているが、イラン側はこれにイランが共謀していると非難している。

また、近年ではアメリカとイランの関係も悪化している。米軍は今年1月、トランプ大統領の指示で、イラク・バグダードに滞在していたイラン革命防衛隊(IRGC)コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官(62)を空爆で殺害した。

ジョー・バイデン次期米大統領は、就任する来年1月以降にイランとの交渉再開に臨むと約束している。

これまでのところ、イスラエルからファクリザデ氏暗殺に関するコメントは出ていない。ロイター通信によると、米国防総省もコメントを控えている。

ファクリザデ氏とはどんな人物か

ファクリザデ氏はイランで最も著名な核科学者で、イラン革命防衛隊の幹部でもある。

西側の安全保障筋からは長い間、イランの核開発計画で非常に強い力を持ち、貢献してきたと言われている。

イスラエルが2018年に入手した極秘文書によると、ファクリザデ氏は核兵器開発計画を主導しているという。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は当時、ファクリザデ氏がこの計画のトップだと説明。「この名前を覚えておくように」と演説していた。

2015年には米紙ニューヨーク・タイムズが、ファクリザデ氏を第2次世界大戦中にアメリカで核兵器開発に携わったJ・ロバート・オッペンハイマー氏と比較する記事を掲載している。

物理学教授のファクリザデ氏は、1989年にイランが極秘で発足した核兵器研究計画「プロジェクト・アマド」を主導していたとされる。

国際原子力機関(IAEA)によると、この計画は2003年に終了している。しかしネタニヤフ首相は極秘文書の内容から、ファクリザデ氏がプロジェクト・アマドを引き継ぐ新たな計画を主導していることが分かったと述べた。

IAEAはイランの核開発をめぐる調査の一環として、ファクリザデ氏との対話を長く望んでいた。

IAEAは今月初め、イランが合意で定められている12倍の量の濃縮ウランを保有していると報告している。

BBCのポール・アダムズ外交担当編集委員は、イランは核合意の履行を無視し始めてから、急速に研究を推進・拡大してきたと説明。

イスラエルが主張するようにファクリザデ氏が核開発の主要人物だったならば、今回の殺害はイランの核開発推進を食い止めたい何者かが、関係しているかもしれない指摘した。

(英語記事 Top Iranian nuclear scientist assassinated