田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 新型コロナウイルス危機によって、2020年のアイドル界はライブ活動の制限などの困難に見舞われた。だが、それでも日本のアイドル市場を賑わす新しい波があった。

 今年デビューしたジャニーズ事務所の2組の男性アイドル、Snow ManとSixTONES(ストーンズ)は、「NHK紅白歌合戦」に初出場することが決まっている。彼らはジャニーズ事務所の旧来の市場戦略とは異なり、会員制交流サイト(SNS)を駆使しK-POP的なイメージビデオなどで国際的な市場を狙っていた。女性アイドルでは乃木坂46、日向坂46、櫻坂46などの「坂道シリーズ」が相変わらず強さを発揮し、ファッションや演劇などでも若者世代のリーダー的な存在感を示した。

 このアイドル市場の動きの中でも特に注目すべきは、韓国の大手芸能事務所JYPエンターテインメント所属で日本市場にターゲットを絞っている9人組女性アイドルグループ「NiziU(ニジュー)」だ。メンバーは全員がデビュー時点で10代で、日本国籍を有しており、そのうちの1人は米国の国籍も保有している。K-POPで全員が日本人で固めた女性アイドルグループは異例だ。

 NiziUと同じ事務所の「お姉さん」グループに日本でも人気が高いTWICEがいるが、そのメンバーは日本を含む韓国、台湾といった多国籍チームである。同じアイドルグループの中に国籍が異なるメンバーがいることは、韓国では珍しくない。出身国のファン層の開拓にメリットがあるだろうし、幅広く国際的な人材確保を可能にすることにもなる。その意味でNiziUのメンバー構成は、日本市場を特別に狙ったアイドルであることを鮮明に伝えている。

 日本のソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントが企画した日韓合同オーディションプロジェクト「Nizi Project」がNiziU誕生の母体である。このプロジェクトは、日本、ハワイ、ロサンゼルスで国際オーディションを開催し、1万人以上の中から26人が選ばれ、日本での合宿トレーニングの後、韓国での選抜に進む14人が決まった。

 そして、最終的には現在の9人でNiziUを結成し、12月中に本格デビューを果たす予定だ。プレデビューで出した楽曲「Make you happy」のミュージックビデオ(MV)はユーチューブで公開されると、わずか2カ月で再生回数1億回を超えた。日本のMVで再生回数最多の6億回を誇る「Lemon」(米津玄師)でさえ、1億回達成までに約100日を要している。いかにNiziUが注目されていたかが分かるだろう。

 2019年の夏から始まったメンバー選びの過程はインターネットで配信された。テレビでも特集が組まれるなど、デビュー前からマーケティング戦略が念入りに組まれていることは、最近のK-POPアイドルグループの売り出し方をそのまま採用している。
モニター画面に映し出されたNiziUのオフィシャルウェブサイト(iRONNA編集部撮影)
モニター画面に映し出されたNiziUのオフィシャルウェブサイト(iRONNA編集部撮影)
 デビューに至るまでの物語を提供することで、何者でもない少女たちが厳しい試練を乗り越えて才能を開花させていく姿を、長期間にわたってファンに見せる。アイドルとファンの間で物語を共有する売り出し方は、もともとは日本が得意とするものだった。だが、いまや韓国の方がSNSの利用や、ファンの活用の点で数段先を行っている。