平野和之(経済評論家)


 11月28日早朝、茨城県の鹿島港の港口付近で、釣り客らを乗せた同県鹿嶋市の遊漁船「第5不動丸」(4・95トン)と広島市の貨物船「はやと」(498トン)が衝突した。この事故で、不動丸が転覆、乗客乗員12人が海に転落し、全員救助されたものの、乗客の男性1人が搬送先の病院で死亡、多数が重軽傷を負う惨事となった。

 鹿島海上保安署は業務上過失往来危険と業務上過失致死傷の疑いで、両船の船長を逮捕(12月1日にいずれも釈放)したが、今回の事故について、船舶関係に詳しい人々は、釣り客に犠牲者が出たことに「前代未聞だ」と口をそろえる。

 筆者は経済評論家だが、釣り好きで「釣り評論家」とも揶揄(やゆ)される中で、実際に不動丸を利用していたことから、本稿では遊漁船などを含めた船の運航に関する現状や対策を考えてみたい。

 筆者は基本、アユ釣りを中心に渓流釣りを主としていたが、3年ほど前からアユ釣り師匠の勧めでヒラメ釣りを始めたことから不動丸を利用するようになった。不動丸の方々は、とても親切で、ヒラメ釣りを始めたばかりの筆者もいろいろと教えてもらい、すぐに10尾ほど釣れるようになった。

 その一方で、よからぬ噂も耳にするようになった。これまでにも整備不良による火災など、5年間に3度も事故を起こしているというのだ。そして、遊漁船の事故は、死者が出ないケースであっても、その要因の多くは、整備不良の他に、前方不注視や居眠りだという。
 
 そもそも、釣り業界は、昨今の新型コロナ禍によって活況を極めている。ただ、大半は岸などからの釣りのため、儲かっているのは、釣り具チェーン店とエサの販売業者だ。活況といっても、バカ騒ぎしたりゴミを捨てたり、一部のマナーの悪い釣り客らが増え、釣りを禁止にする区域も増えている。

 また、船を利用する本格的な高級魚釣りや磯釣りなどをする人は減少傾向にあり、遊漁船運航会社の廃業が相次いでいるのも現状だ。特に、古い船や小型船は維持管理費、更新費の負担が大きく持続は難しい。

 その一方で、シャワー付きトイレが完備されているような大型船の中には、価格が1億円するものもあるが、人気が高い。こうした二極化が進む中で、今回事故が起きた鹿島港の遊漁船はどちらの部類に入るか微妙だ。

 鹿島港のメインはヒラメだが、シーズンは11月に一部解禁となり、12月に全面解禁となる。そして3月に禁漁になるため、漁期が短い。例年1月になると釣り客は減り、夏は閑散期だ。

 このため、鹿島港の船は大型が比較的少なく、5千万~7千万円ぐらいの船を比較的長く使う傾向がある。通常の遊漁船は、購入費用の回収に2~3年かかるが、儲からなければ、いろいろコストカットするようになる。
事故で転覆し、引き揚げられた遊漁船「第5不動丸」=2020年11月29日、茨城県神栖市
事故で転覆し、引き揚げられた遊漁船「第5不動丸」=2020年11月29日、茨城県神栖市
 また、厳しい環境に置かれているのは船の運航スタッフらだ。基本は売上歩合制で、タクシー運転手と同様である。おおむね、船長で1万5千円前後、中乗りで日当1万円前後だ。

 労働時間を見ても厳しい。たとえば、午前5時半の出船の場合事前準備などで午前4時ごろに事実上仕事が始まり、正午に帰港しても整備や清掃などで午後2時ぐらいまでかかる。