2020年12月03日 13:15 公開

シンガポールは2日、動物の細胞から人工培養でつくる「クリーンミート」(屠殺された動物のものではない食肉)の販売を、世界で初めて承認したと発表した。

これにより、米サンフランシスコを拠点とする新興企業「イート・ジャスト」が培養鶏肉を販売できる道が開かれた。

クリーンミートはまず初めにナゲットに使用されることになるが、同社は提供開始時期については明言していない。

消費者の健康や動物福祉、環境に対する懸念から、通常の食肉の代替品への需要は急激に高まっている。

英バークレイズ銀行によると、代替肉の市場は今後10年以内に1400億ドル(約14兆6300億円)規模に膨らむと見込まれている。これは、世界の食肉産業(1兆4000億ドル規模)の約10%に相当する。

米カリフォルニア州の「ビヨンド・ミート」や「インポッシブル・フーズ」などが生産する植物性の肉は、スーパーやレストランのメニューで見かけるようになってきている。

しかしイート・ジャストの製品はこれらとは異なる。植物性ではなく、研究室で動物の筋細胞を培養してつくるからだ。

食品業界にとって画期的

イート・ジャストは培養肉の販売承認について、「世界の食品業界にとって画期的」なことだとし、ほかの国がこの動きに追随することを期待するとしている。

過去10年間、数十の新興企業はより倫理面で配慮した製品の提供を約束することで、従来の肉を食べている人々をひきつけられると期待し、培養肉を市場に投入しようとしてきた。

そうした企業の中で最大規模なのがイスラエルを拠点とする「フューチャー・ミート・テクノロジーズ」と、米マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏の支援を受ける「メンフィス・ミート」だ。両社は手ごろな価格でおいしい培養肉を開発し、市場に参入しようとしている。

シンガポールの「ショーク・ミーツ」はエビなどの甲殻類の培養肉の生産に取り組んでいる。

多くが環境面へのメリットを強調しているが、一部の科学者は状況によっては気候変動へ悪影響を及ぼす可能性があると示唆している。

安全な「新規食品」

シンガポール食品庁(SFA)によると、ある専門家ワーキンググループがイート・ジャストの製造管理と培養鶏肉の安全性試験に関するデータを調査した。

「調査では、意図された使用レベルで培養肉が消費されても安全であることが判明した。イート・ジャストのナゲット製品の原材料としてシンガポール国内で販売することが許可された」と、SFAは述べた。

SFAは、培養肉やその他の代替タンパク質製品がシンガポールで販売される前に安全基準を満たしているかを確認する「新規食品」規制枠を設けていると説明した。

「規制当局による培養肉(販売)の承認は、シンガポールをはじめ世界各国において、我々が初めてになると確信している」と、イート・ジャストの共同創設者ジョシュ・テトリック氏はプレスリリースで述べた。

同社は、培養肉には抗生物質は一切使用しておらず、従来の鶏肉よりも微生物の量が少ないと説明した。

「動物の細胞から直接つくられた本物で高品質の肉を、安全に人間が消費できることが世界で初めて規制当局に認められた。これは、今後のシンガポールでの小規模な商業展開にむけて道を切り開くことになる」


<解説>今後の課題――大井真理子、BBCニュース(シンガポール)

イート・ジャストのトップは、「食品業界における最も重要な節目の1つ」だとしたが、課題は残っている。

第一に、研究室で食肉を生産するのは、植物性の肉よりもはるかにコストがかかる。

それをはっきり示しているのが販売価格だ。イート・ジャストは以前、研究室でつくった鶏肉をつかったナゲットを1個50ドルで販売することになると言っていた。

その後、コストは下がったものの、高級鶏肉と同じくらい高価なものになるだろう。

もう1つの課題は、消費者の反応だ。

しかし、シンガポールがイート・ジャストの製品を承認したことで、競合他社がシンガポールに進出する可能性が高くなり、他国の承認を促すことも考えられる。


(英語記事 Singapore approves lab-grown 'chicken' meat