仲村覚(日本沖縄政策研究フォーラム理事長)

 11月24~25日に来日し、尖閣諸島(沖縄県)の領有権を主張する暴言を繰り返した中国の王毅外相に対し、茂木敏充外相はその場で即座に毅然とした反論ができなかった。

 公式な外交の場で、尖閣諸島を実効支配しているのは中国だという国際発信を許してしまっただけに、茂木外相は多くの国民のみならず、自民党内部からも強い批判を受けた。

 批判は当然で、万一紛争が起きたとき、日本を著しく不利な立場に追い込んでしまう危険な対応だ。だが、中国の野望は決して尖閣諸島という小さな島では収まらない。

 今年に入ってから中国が尖閣諸島の領有を主張する際に必ず使っているフレーズがある。それは、「四つの原則的共通認識」という難解な言葉だ。

 これはすでに、中国外務省の報道官が5月以降2度にわたって、尖閣諸島を巡って日本を非難する際に使っている。5月11日には、人民日報のネットサイト「人民網日本語版」に、趙立堅報道官の「われわれは日本側に四つの原則的共通認識の精神を遵守し、釣魚島問題において新たなもめ事が起こることを避け、実際の行動で東中国海情勢の安定を守るよう要求する」と日本を批判するコメントが掲載された。

 そして11月26日の王毅外相の記者会見での発言が3度目の言及で、「われわれは3点の希望を持っている」とし、その1点目は「双方が4項目の原則的共通認識を堅持すること」(通訳者による日本語訳)と主張した。

 つまり、中国は「四つの原則的共通認識」に基づき、日本は尖閣諸島の主権を放棄せよと主張し、日中間には既にそのような共通認識があるというのだ。これに反論しなかったということは、その共通認識の存在を認めてしまったということになる。

 だが、この重要な背景を日本の大手メディアは一切報道せず、外務省はホームページでこの会談の報告を実施しているものの、この発言内容については完全無視である。
外務省の外観=東京・霞が関
外務省の外観=東京・霞が関
 そもそも中国の政治発言には意味のない嘘も言葉もない。日本人の嘘はとっさのいいわけが多いが、中国の嘘には国家的戦略と意思がある。このような嘘は、その意図を見抜くまでは徹底的に分析し、手を打たなければ大きな謀略にはまり、取り返しのつかないことになるのだ。

 では、中国が「四つの原則的共通認識」という言葉を使った意図はいったい何なのか。外務省のホームページの中に、中国に関する2014年11月7日付の「日中関係の改善に向けた話合い」という部分がある。その1項目に「双方は、日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」とある。

 中国が使う「四つの原則的共通認識」は、全くのデタラメではなく、表現は異なるが、日本の外務省と取り交わしていた言葉だったのだ。

 「四つの原則的共通認識」とは日中間で合意した四つの政治文書のことで、1972年の「日中共同声明」、78年の「日中平和友好条約」、98年の「日中共同宣言」、2008年の「日中共同声明」を指す。