2020年12月11日 9:30 公開

ホリー・ホンデリッチ、BBCニュース(米ワシントン)

ドナルド・トランプ米大統領は、任期が終わりに近づく中、立て続けに死刑を執行しようとしている。

来月20日にジョー・バイデン次期大統領が就任するまでに、連邦政府による死刑執行が5件予定されている。アメリカでは政権の移行期間中には政府は死刑を執行しないことが、130年にわたって慣例となっている。

仮に5件の死刑がすべて執行されれば、トランプ氏は過去約100年で、在任中の連邦レベルの死刑執行が最も多い大統領となる。今年7月以降だけで、連邦政府の死刑執行は13件になる。

5件のうち、最初の死刑執行は今週行われる。ブランドン・バーナード死刑囚(40)と、アルフレッド・ブージョワ死刑囚(56)だ。ともにインディアナ州テラホートの刑務所で執行される。

ウィリアム・バー司法長官は、法律に従っているだけだとしている。しかし、死刑の廃止を目指すと表明しているバイデン氏の大統領就任を目前に、死刑執行が続くことへの懸念が示されている。

無党派の「死刑情報センター」の調査責任者、ンゴジ・ンデュリュ氏は、「まったく異常だ。それも極端に」と述べた。

(編集部注・バーナード死刑囚は10日夜、ブージョワ死刑囚は11日夜、それぞれ死刑が執行された)

アメリカの死刑政策

アメリカでは1988年に連邦最高裁が死刑の再開を認めたが、連邦政府による死刑執行はごく少数にとどまっている。

トランプ氏が大統領になるまで、連邦政府の死刑執行は1988年以降、3件だけだった。

そのすべてがジョージ・W・ブッシュ大統領(共和党)の在任中に行われた。うち1件は、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件のティモシー・マクヴェイ死刑囚の死刑だった。2003年以降は、連邦政府による死刑執行はなかった。


州レベルでは死刑執行は続いている。昨年は22件の死刑が執行された。ただ、件数は減少傾向にある。

死刑を廃止する州は増えている。大多数の州は正式に死刑を禁止しているか、10年以上死刑執行を停止している。

世論も死刑を支持しなくなっている。昨年のギャラップ社の世論調査では、米国民の6割が死刑より終身刑を支持した。終身刑の支持が上回ったのは、この世論調査が30年以上前に始まってから初めてのことだった。

「死刑への支持は過去数十年で最低となっている」と、「死刑情報センター」のンデュリュ氏は話した。

死刑の方法をめぐっても問題が持ち上がっている。薬物注射による死刑に使う薬品の入手が、難しくなっているのだ。さらに、死刑をめぐって数十年間続く裁判の費用も膨らんでいる。

トランプ政権と死刑

バー司法長官は2019年7月、死刑停止の流れと世論の不支持にもかかわらず、5人の死刑囚に対する刑の執行予定を発表した。

「議会は死刑を明確に承認している」とバー氏は当時、声明で述べた。「司法省は法の支配を守る。私たちの司法制度が出した刑を執行するのは、被害者と家族のためでもある」。

5人の死刑囚らは、子どもや高齢者に対する殺人や強姦などで有罪になっていると、バー氏は話した。

こうした動きを、民主党幹部や人権団体などは強く非難している。

「(死刑は)憲法違反に当たる恣意(しい)的な刑罰であり、とっくに廃止されているべきだと考えている」と、全米黒人地位向上協会(NAACP)リーガル・ディフェンス・ファンドの政策責任者リサ・カイラー・バレット氏は話した。

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どの死刑囚の刑を執行するのかの選択についても、背景に政治的な動機があるとの批判が出ている。

今夏、人種差別への抗議デモが盛んになる中で執行された複数の死刑は、全員白人男性に対するものだった。一方、今回は死刑執行が予定されている死刑囚5人のうち、4人がアフリカ系アメリカ人だ。

「死刑情報センター」のンデュリュ氏は、「連邦政府の死刑をめぐって人種格差が注目された」時期に、黒人死刑囚の刑の執行が無かったのは「偶然」ではないと話した。

研究者らは、死刑の適用をめぐっても人種によって差があると指摘している。

「国内各地のいくつもの調査からわかった厳然たる事実の1つに、死刑判決を受けるかどうかは、被害者の人種が大きく影響していることがある」と、ンデュリュ氏は述べた。

何が起きている?

ブランドン・バーナード死刑囚とアルフレッド・ブージョワ死刑囚の刑が予定通り執行されれば、今年の死刑執行は10件となり、現代アメリカでは年間最多となる。

「10人以上の死刑執行は、1896年以降ない」と、「死刑情報センター」のンデュリュ氏は話した。


トランプ政権は政権移行のただ中に、連邦政府による死刑執行に踏み切ることを決めた。レームダック(死に体)の大統領としては、過去100年以上なかった動きだ。

現職の大統領はふつう、歴代の大統領に倣って、次期大統領に判断を委ねてきた。

バー司法長官はAP通信のインタビューで、大統領選後に死刑を執行することの正当性を主張。司法省を去る前に、さらに死刑執行を増やす可能性にも言及した。

「死刑を止める方法は、死刑を廃止することだろう」とバー氏は述べた。「しかし、陪審員らに死刑を出すことを強いている現状では、執行すべきだ」。

ただ、このタイミングでの執行は、バイデン次期政権が死刑廃止に取り組むとしていることからも、論議を呼んでいる。

5人の中で最初に死刑執行が予定されているバーナード死刑囚については、特に注目が集まっている。殺人と誘拐で1999年に有罪判決を受けた同死刑囚は、犯行時18歳だった。連邦政府による死刑執行対象者の犯行時年齢としては、過去約70年間で最年少となる。

同死刑囚の裁判で陪審員を務めた現存する9人のうちの5人と、控訴審で死刑が妥当だと主張した連邦検察官は、死刑を執行しないよう公に求めている。

米タレントのキム・カーダシアン氏もツイッターで、トランプ氏に執行しないよう直訴している。

バイデン氏の死刑への考え

トランプ氏は長年、死刑への支持を公言してきた。一方、バイデン氏のチームは死刑に反対している。

中でもカマラ・ハリス次期副大統領は、一貫して死刑を批判してきた。2003年のサンフランシスコ地方検事の選挙では、死刑反対を表明して当選。29歳の警官が職務中に殺害された事件が起こると、民主党内の圧力をはねつけ、死刑の求刑を拒んだ。


一方、バイデン氏の死刑に対する姿勢は、ハリス氏ほど一貫していない。

1994年にバイデン氏が提出した犯罪法案は、死刑となる可能性がある連邦犯罪を約60種追加した。現在収監されている死刑囚には、同氏がつくった法律で死刑判決を受けた者もいる。

バイデン氏は今般、連邦政府による死刑の撤廃に向け、法律の制定を推し進めると約束。州政府に対しても、同様の取り組みを求めるとしている。

同氏のチームは、1973年以降に死刑判決を受けた人のうち、160人以上がのちに無実とされたと指摘している。バイデン氏はまだ、司法長官を指名していない。


近く執行が予定されている死刑囚

  • ブランドン・バーナード死刑囚 1999年に若い教会関係者2人を誘拐し殺害した罪で有罪となった。12月10日に刑の執行が予定されている。犯行時に若年だったことから恩赦を求める声が上がっている。
  • アルフレッド・ブージョワ死刑囚 2歳の娘をせっかんして殴り殺した罪で死刑判決を受けた。12月11日に刑の執行が予定されている。それよりも前に執行日が設定されていたが、弁護団から同死刑囚の知的能力に障害があるとする証拠が出され、連邦判事が執行を延期した。この判断は10月に覆された。
  • リサ・モンゴメリー死刑囚 2004年に妊婦を絞殺し、体を切り裂いて赤ちゃんを誘拐した。来年1月12日に刑の執行が予定されている。弁護団は、子ども時代に殴打されたことで脳に損傷を受け、重度の精神病を患っていると主張している。アメリカで女性の死刑が執行されるのは1953年以来となる。
  • コーリー・ジョンソン死刑囚 ヴァージニア州リッチモンドで薬物取引に絡んで7人を殺害した罪で有罪となった。弁護団は同死刑囚に知的障害があると主張。子ども時代の身体的、精神的虐待が関係しているとした。1月14日に刑の執行が予定されている。
  • ダスティン・ジョン・ヒグス死刑囚 1996年に首都ワシントン地域で若い女性3人を誘拐して殺害した罪で有罪となった。被害者は1人も殺しておらず、同死刑囚の指示を受けたウィリス・ヘインズ受刑者が殺害した。同受刑者は裁判の書面で、ヒグス死刑囚から発砲するよう脅迫や強制されたことはなかったと供述している。1月15日に刑の執行が予定されている。

(英語記事 Trump hurries executions in final days as president