前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授)

 来年1月のジョー・バイデン政権発足を踏まえ、ホワイトハウスの国内政策会議を統括する補佐官にスーザン・ライス氏が指名された。その背景を考えてみたい。

 ライス氏は、バラク・オバマ氏が大統領だった時代に前半4年間は国連大使、後半4年間は国家安全保障担当の大統領補佐官を務めた「外交のプロ中のプロ」のはずだ。同政権で副大統領だったバイデン氏との個人的な信頼関係もあり、副大統領候補や国務長官候補に浮上していた。黒人であることも多様性を強調する次期バイデン政権にとっては重要なアピールポイントだった。

 そのライス氏を、なぜホワイトハウス国内政策担当補佐官に任命するのか。同氏の外交政策での経験を考えると、予想外の動きだ。

 これは、共和党側がライス氏の外交手腕に大きな疑念を持っているため、という一言に尽きる。2012年9月にリビア東部ベンガジで米領事館が襲撃され、スティーブンス米国大使を含む4人の米国人が殺害された事件についての対応があまりにもまずかったという批判である。

 米領事館襲撃事件の際、国連大使だったライス氏は各種メディアに登場し「自然発生的なデモが暴走したもの」という見解を繰り返した。しかし、実際には、リビアではイスラム過激派による襲撃計画があり、スティーブンス大使らが警備の増強を要請していたにもかかわらず、オバマ政権が放置していたことが判明したのだ。ちょうど、オバマ氏は再選を目指す選挙戦の最中だった。「選挙にマイナスにならないように対応が遅れ、真相を隠したのでは」と当時の国務長官であったヒラリー・クリントン氏だけでなく、次期国務長官候補の筆頭だったライス氏を、共和党は強く批判した。

 12年の大統領選挙でオバマ氏は再選を果たすが、上院での承認時に共和党から激しい反発が出ることが予想され、ライス氏は国務長官ではなく、承認がいらない国家安全保障担当の大統領補佐官に収まった。代わりにオバマ第2期政権の国務長官になったのは、ジョン・ケリー氏だった。ケリー氏は上院議員、2004年の民主党大統領候補などの経験があり、今回のバイデン政権でも気候変動問題担当特使に指名されている。

 ライス氏については、そのときのデジャビュ(既視感)のような印象もある。バイデン政権の国務長官候補の筆頭に、ライス氏の名前は常に挙がっていた。おそらくバイデン氏は11月3日の議会選挙で民主党が伸び悩んだ状況を見て判断したのだろう。
スーザン・ライス氏=2016年4月(AP)
スーザン・ライス氏=2016年4月(AP=共同)
 来年1月5日に行われるジョージア州の2議席(現在2議席ともに共和党)の決選投票待ちだが、もともと共和党が強い地盤を持つ地域だ。最終的に2議席とも共和党が取り、上院全体では共和党52対民主党48(民主党側は統一会派の無党派を含む)で共和党が多数派を維持する可能性が高くなっている。

 上院で共和党が多数を占めた場合、ライス氏の承認が困難、もしくは非常に荒れることが予想される。結局、国務長官にはバイデン氏の側近で、オバマ前政権下で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケン氏が起用された。