省庁のトップではなく、アドバイザーや調整役にすぎない補佐官の場合、上院での承認が不必要である。ライス氏の場合、国家安全保障担当の補佐官は既にオバマ第2期政権で経験しており、外交分野でのポジションがない中、ホワイトハウス国内政策担当補佐官に落ち着いた。ただ、この役職はこれまでは調整役であって、実務に徹する人ばかりだった。一部で報じられた「国内政策チームのトップ」という感じではないのだが、ライス氏の起用でおそらくポストの機能強化を目指すとみられる。

 それでも疑問なのが、共和党側から嫌われているライス氏にバイデン氏がなぜこだわるのか、という点だ。

 今回のバイデン政権の閣僚や任命ポストの多くが「また昔の人を」といった選び方が特徴である。上述のケリー氏にしろ、退役軍人省長官のデニス・マクドノー氏や農務長官のトム・ビルサック氏にしろ、指名されたのはオバマ政権の要職だった人物ばかりだ。まるで「team of repeats(リピーターのチーム)」という表現がぴったりで、あとはオバマ氏が加われば「第3期オバマ政権」である。

 それだけ人事でバイデン氏との個人的な関係が重要なようだ。ライス氏はそのお友達人事の象徴だ。お友達である分、たとえ内政であっても近くに置きたかったのだろう。

 ところで、日本の外交関係者の中にはライス氏を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌う人もいる。東アジアの安全保障に関わるこれまでの発言が、ことごとく的外れだったためだ。

 ライス氏の甘いと言わざるをえない東アジアの現状認識を象徴するのが、13年11月、ジョージタウン大でオバマ政権のアジア・太平洋政策について語った演説である。安全保障担当補佐官だったライス氏は「米中は新たな大国関係を機能させようとしている。競争は避けられないが、利害が一致する問題では協力を深めていく」と述べた上で、「中国とは新たな大国関係を機能させようとしている」と中国の習近平国家主席が提唱した太平洋分割論を容認したような発言をした。習氏は同年6月、オバマ大統領との首脳会談で「太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」と、太平洋を米中で分割支配しようという日米同盟を完全否定する提案をしていた。

 さらに、ライス氏は講演後の質疑で尖閣問題を問われると「米国は主権の問題には立ち入らない」と、尖閣が日本の施政権下にあるという、これまでの米政府の公式見解から後退した発言も行っている。

 米国にとって中国は競争者であるが敵対者ではない、というのがライス氏の持論のようで、その後も同じ話を繰り返してきた。さすがに最近では考えを改めたかもしれないが、「中国は近隣諸国を不法占領しているわけでもない」と言い出したこともある。
デラウェア州ウィルミントンのバイデン次期米大統領(右)=2020年12月17日(ロイター=共同)
デラウェア州ウィルミントンのバイデン次期米大統領(右)=2020年12月17日(ロイター=共同)
 ライス氏が外交政策に直接関与しないことになり、日本にとっては「まずはよかった」と言えるのかもしれない。ただ、内政の中でも外交に関連するようなものも今後出てくるだろう。特に分極化が激しい国内政治の状況を考えると、内政の観点からさまざまな外交政策が再定義されてしまうようなこともあり得よう。中国に対する気候変動対策などがその象徴だ。

 国内政策では要職にあり、バイデン氏と近いライス氏の発言については、日本は今後も引き続き要注意だ。