2020年12月24日 12:18 公開

イギリスと欧州連合(EU)は24日午後、新しい自由貿易協定(FTA)などを巡る通商交渉で合意した。当初は同日朝に合意に至ると言われていたものの、イギリス海域での漁業権について詳細の詰めが続き、同日午後になってEUとイギリス政府の双方が合意成立と発表した。

通商交渉では漁業権や競争のルールなどで両者の立場に大きな溝があり、数カ月にわたり協議が難航していた。

合意文書はまだ公表されていないが、ボリス・ジョンソン英首相は、「私たちは自分たちの法律と運命を取り戻した」、「欧州全体にとってよい合意だ」と述べた。

イギリスは今月31日、EUの貿易ルールの枠組みから離脱する。

「素晴らしい機会を活用できる」

英首相官邸はこの日、「ブレグジット(イギリスのEU離脱)を実現した。これからは、待ち受ける素晴らしい機会を全面的に活用することができる」とコメントを発表。「2016年の国民投票と昨年の総選挙でイギリス国民に約束されたすべてのことが、この合意で実現する」、「私たちは自分たちの金、国境、法律、貿易、そして漁業水域の決定権を取り戻した」と述べた。

ジョンソン英首相は「合意達成だ」という言葉と共に、両手の親指を立てた写真をツイートした。首相はさらに官邸で会見し、新型コロナウイルス対策を最優先の課題として、国民の間の不透明感を取り払うためにも、通商協定の合意が実現できたのは喜ばしいことだとして、「1月1日から私たちは関税同盟と単一市場の外に出る。イギリスの法律を作るのは、イギリスの議会だけになる」と述べた。

「年間6680億ポンド相当の過去最大の合意に達した」と首相は述べ、「イギリスとEUの間の、カナダ式の包括的な合意だ。この国の雇用を守り、イギリスの製品をEU市場で無関税のまま、数量制限もなく売れるようにする合意だ」、「この国の企業が今まで以上に欧州の友人たちと取引できるようにする合意だ」と説明した。

「EUにも良いこと」

ジョンソン首相はさらに、「まとまって満足しているイギリスがEUの目の前にいるのは、EUにとっても良いことだ」と説明。イギリスと欧州の文化や歴史や戦略上の結びつきは今後も続くほか、イギリスはEUにとって最大の友人で協力相手であり続けると強調した。

漁業については、「私たちは1973年以来初めて、自分の海域について全面的な決定権をもつ独立した沿岸国になる」として、漁業関係者の船舶刷新のため1億ポンドを提供すると述べた。

さらに首相は国民に対して、「本当に大変だったこの1年の終わりに際して、何より重視しているのはパンデミックに打ち勝つことと経済の再建」だと説明。「実現可能だと完全に自信を持っているが、今のこの瞬間がいかに重要か認識して、それを最大限に活用するためは、私たち全員が新しい本当の意味で独立した国として、まとまるかどうかにかかっている」と呼びかけた。

「長く曲がりくねった道だった」

これに先立ちブリュッセルでは、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が記者会見に臨んだ。「長く曲がりくねった道だったが」とビートルズの曲から引用しつつ、「その分だけ良い合意に至ることができた」と述べた。

「公平で、バランスのとれた合意で、双方にとって正しく、責任ある行動だ」と、委員長は強調。「今はページをめくり、将来を見つめるべき時」で、イギリスは今後も「信頼できるパートナーであり続ける」と述べた。

漁業では5年半の移行期間

漁業関係者には5年半の移行期間が設けられるほか、気候変動やエネルギー、安全保障や運輸などにおいて、EUとイギリスの協力関係は継続するという。

「EUとイギリスは共通の世界的目標を実現するため、肩を並べ続ける」と委員長は話した。さらに、「いつもなら合意達成はうれしいものだが、今の私はただ静かな満足感と安堵(あんど)の気持ちでいる」とした上で、「イギリスの友人の皆さん、別れはなんと甘い悲しみなのでしょう」とシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」から引用しながら述べた。

さらに委員長は「T.S.エリオットの詩から一行借りるなら、『私たちが始まりと呼ぶものはしばしば、終わりでもある。そして何かを終わらせることは、何かを始めること』です。なのですべての欧州人に申し上げます。ブレグジットはもう過ぎたことにしましょう。私たちの未来は欧州で作られます」と話した。

また、EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は「(交渉期限の)時計は動きを止めた」と述べた。「全員が4年間かけて努力し、EUが団結したおかげ」だとした上で、「ほっと安心する日だが、これまでのことと今後のことを比べると、いくらか悲しみに彩られた日でもある」と話した。

協定は約2000ページに及ぶもので、ブレグジットの移行期間が終了する12月31日までに、双方の議会で承認される必要がある。ジョンソン首相は会見で、30日までに議決のため議会を招集したい考えを示した。

協定がなければ来年1月1日からEUとイギリスがお互いに関税を課すことになり、物価などに影響が出ると懸念されていたが、この懸念はなくなった。

ただし、合意内容がイギリスの経済界にどう影響するかは、まだはっきりしていない。

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EU関係筋によると、ジョンソン首相とフォン・デア・ライエン委員長は、クリスマス休暇で交渉が中断する前に膠着(こうちゃく)状態を打破しようと連絡を取り合っていた。

イギリスは来年1月から漁業権を掌握し、現在のEUの割り当て制度よりも多い漁獲量を確保したいとしていた。

しかしEU側は、新たな漁業システムには段階的に移行することを希望し、フランスやスペインなど加盟国が引き続きイギリスの漁業水域で操業できるようにする取り決めを求めていた。

ジョンソン氏は合意後の会見で、「EUは移行期間を確か14年にしたいと言い、私たちは3年にすべきだと主張し、結局5年で決着した」と述べた。

「ロンドン金融街は繁栄」

ジョンソン氏はまた、金融サービス分野ではイギリスの要求がすべて満たされたわけではなかったと説明。それでも合意によって、「活力あるロンドンの金融街が、かつてないほど繁栄できるようになる」と話した。

通商交渉では、イギリスの企業に引き続きEU域内の企業と同じ競争ルールを適用するかどうかや、今後、貿易紛争が起きた場合にどのように解決すべきかについても意見が割れていた。

イギリスは現在の移行期間中はEUの通商ルールに従っているものの、複数の閣僚が、移行期間の延長はありえないと繰り返していた。

英与党・保守党の離脱推進派議員が構成する議連「欧州調査グループ(ERG)」は、合意に達した協定について、「生え抜き」の弁護士団に精査させると述べている。

今回の合意によって、北アイルランドを除くイギリスの大部分が、エラスムス計画(EUの学生流動化計画)への参加をとりやめる。同計画を「極めて費用がかかる」と批判してきたジョンソン氏は、イギリスではチューリング計画と呼ばれる別のプログラムがこれに代わると述べた。

労働党は合意を支持

最大野党・労働党の党首でブレグジットに反対してきたサー・キア・スターマーは、今回の合意について、党として議会で賛成すると表明した。

スターマー氏は、仕事や金融業界などに対する保護の面で「政府が約束したような合意ではない」と批判。しかし、再交渉の時間はなく、合意がなければ恐ろしい状況を招くことから、今回の合意への支持を決めたと述べた。

「スコットランドの意思に反する」

ウェールズのマーク・ドレイクフォード自治政府首相は、合意に至ったのは「合意なし」よりましだと述べた。ただ、イギリスがEUの単一市場から抜けるわずか1週間前というタイミングになったことを批判した。

スコットランドのニコラ・スタージョン自治政府首相は、「ブレグジットはスコットランドの意思に反して起きている。ブレグジットによって失われるものを補える合意は存在しない」、「独立した欧州国家としての(スコットランドの)将来を描く時が来た」と話した。

アイルランドのミホル・マーティン首相は、合意文書をこれから検討するとし、「今日聞いた限りでは、よい妥協とバランスの取れた結末だと思う」と述べた。

漁業団体は落胆

2016年の国民投票でイギリスのEU離脱を強く訴えたブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首は、合意を「完璧からはほど遠い」と批判。特に漁業分野では「ひどい合意」だとしたが、「5年前よりはずっとまともだ」と述べた。

英国立漁業団体連盟(NFFO)のバリー・ディーズ会長は、イギリスが「漁業で大きく譲歩」したとし、「漁民は今夜、落胆とフラストレーションが大きくなるだろう」と述べた。そして、「これを裏切りと考える人も出るだろう」と付け加えた。

BBCのローラ・クンスバーグ政治編集長は、イギリスとEUの双方が合意について変更を求めたり、相手が合意に違反したと思った時にペナルティを求めたりできる「バランス回復条項」が盛り込まれたことに注目すべきと解説。

イギリス側はこれによって、合意が双方に適用され、互恵的なものになったと考えているが、物事がうまく運ばなければ、全体は崩壊せずに合意が機能しなくなる可能性もあると指摘した。

(英語記事 Brexit: Boris Johnson hails free trade deal with EU / UK-EU trade deal expected, as cabinet briefed