周庭の「号泣」は意外だった。厳しい判決に直面して心が折れてしまったのか。3人は昨年のデモに対する起訴内容を認めたが、その罪状自体が事実とかけ離れおり、有罪判決には政治的な意図が見え隠れしている。

 昨年6月21日、周庭の「違法行為」の現場に筆者は居合わせていた。会員制交流サイト(SNS)で呼びかけられた人々で警察本部前の道が埋め尽くされていた。数万人ほどにも見えるデモ隊は、口々に「黒警」や「狗警」と警察をののしっていた。さらには、近くの商店で買ったと思われる生卵も投げられていた。

 デモ隊は、騒乱罪の容疑で逮捕された学生たちの解放を要求していた。数時間前に刑務所から出てきたばかりの黄之鋒も合流した。深夜になり、黄之鋒はメガホン越しに「このまま占拠を続けますか? それとも今日は解散しますか?」などと、デモ隊に問いかけた。どちらかというと、解散を勧めていたという。

 狭い場所に大勢の人が集まっていたため、催涙弾を撃たれるとパニックで危険な状態に陥る恐れがあった。だが、黄之鋒の声に応える人はおらず、日付が変わってから匿名性が高いメッセージアプリ「テレグラム」で撤退が決まった。

 昨年のデモには明確なリーダーが存在せず、このテレグラムを通していろいろな判断が下された。2014年の雨傘運動であれば、現場でメガホンを握った黄之鋒の呼びかけに多くの参加者が従ったのだろうが、この日に集まった人々は動かなかった。彼らが凝視していたのはデモのリーダーではなく手元のスマホだった。

 そうした意味で6月21日の夜は、昨年のデモが今までとは性質がまったく異なるものであることを示している。周庭も、その場に居合わせたが目立った発言はなかったという。

 昨年の民主化運動の中では、周庭と黄之鋒は参加者の一人という立場でしかなかった。それでも周庭たちが逮捕されたのは、香港政府の北京へのポーズだといわれている。「中心なきデモ」で有効な対応がとれなかった警察は、誰かを首謀者として逮捕しないと、北京に対して顔が立たなかったのだ。

 「香港で社会運動をやっていると逮捕されるのは当たり前です。みんな恥だとは思っていません」

 19歳になったばかりの周庭は、筆者にそう語った。2017年には中国の国家主席、習近平の香港訪問を前にした抗議活動で、今年8月には香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕されている。今回、周庭ら3人が理不尽な起訴内容であっても、それを認めたのは弁護士のアドバイスによる法廷戦術だった。香港の裁判所では、民主化運動に携わった政治犯については、厳しい判決が続いていたのだ。

 「従来の香港の司法では罪を認めれば、執行猶予やボランティア活動で済んでいたはずなのです」(香港の民主派男性)

 それが禁錮10月の実刑判決なのである。周庭は感情が抑えられなかったのだろう。
11月23日、香港の裁判所に到着する周庭氏(AP=共同)
11月23日、香港の裁判所に到着する周庭氏(AP=共同)
 「それと同時に、今年の国安法違反での逮捕が頭をよぎったのではないでしょうか。国安法違反で有罪となると、大陸に送られて数年服役することさえありうるのです」(同)