現在の香港は司法の独立を喪失し、三権分立が損なわれつつある。周庭は判決の先にある「香港社会が完全に壊されてしまったこと」「大好きな香港を守れなかったこと」を感じ、涙したのではないか。

 香港民主派への弾圧は、かつてない規模で続いている。2020年12月11日には、民主派寄りの大手紙「蘋果(ひんか)日報(林檎日報、アップルデイリー)」創業者の黎智英(ジミー・ライ)が国安法違反で起訴された。

 「ツイッターで台湾の蔡英文総統などをフォローして国際社会に助けを求めるツイートをしたこと、亡命を図った12人の香港人の保護を呼びかけたこと、習近平の独裁を批判したことなどが理由ではないかとされています。ツイッターのフォローすら逮捕の要件になるのか、と香港では動揺が広がっています」(同)

 日本では「アベ政治を許さない」などの政権批判が、少し過激なものとして容認されているが、中国でこうしたことはあり得ない。しかし、香港は違った。6年前の雨傘運動では習近平の実物大の立て看板が並び、「我要真普選(真の普通選挙を求めます)」という民主派のスローガンをまとわせたものまであった。

 そうした行為も、今では国安法違反となってしまう。12月8日には、香港中文大学で11月に行われたデモに参加した8人が逮捕された。香港独立旗や「光復香港 時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」などのスローガンを掲げたのが逮捕容疑とされている。当たり前にあった表現の自由、政治活動の自由が失われた瞬間だった。

 「経済的報復」を受けたケースもある。今年11月、香港政府が立法会の民主派議員4人の資格を剥奪したことに対し、他の民主派議員15人が辞職して抗議した。集団辞職した一人、許智峯がデンマークで亡命の申請を発表すると、香港警察はマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがあるとして、許智峯の銀行口座を凍結するよう各行に要請したのだ。

 周庭、黎智英、許智峯らは著名人ということもあり、顔と名前を明かして活動をしていた。民主派議員はデモ隊と対峙(たいじ)する警察に説得を試みることも多かった。もはや、そうした合法的な活動さえも許されない。

 「許智峯の亡命がショックだったのは、銀行口座まで簡単に差し押さえられたからです。国際金融都市としての香港を守るつもりが政府にはないのです。香港市民は預金を外資系の銀行に移しはじめ、英国海外市民(BNO)旅券を申請しています」(同)

 BNO旅券とは、英国が旧植民地の市民向けに発行するパスポートで、香港では1997年の返還より前に生まれた人が取得できる。国安法の施行後、英政府がBNO旅券の保有者に市民権獲得への道を開いたことを受け、英国への移住を考える人々がBNO旅券を求めた。

 「私も海外移住を考えています。香港にはもう未来がない。子供たちは海外で育てたい。あなた(筆者)も香港に来ないほうがいい。あなたが知っている香港はもう死んだんです」(同)
2020年10月15日、香港の裁判所に入る黎智英氏(AP=共同)
2020年10月15日、香港の裁判所に入る黎智英氏(AP=共同)
 昨年6月以降、デモで逮捕された香港人は1万人以上だといわれている。その中で、海外渡航が制限されていない人たち香港を去っている。脱出先は台湾、米国、カナダ、ドイツなどだ。

 「もともと香港は、父や祖父の世代に、大陸の共産党の支配から逃れてきた人たちが作った街です。だから、私たち世代も逃げることには慣れているのです」(同)