西牟田靖(ノンフィクション作家、フリーライター)
中国の王毅外相は、先月行われた茂木敏充外相との会談後の共同記者発表で、次のように語った。
所属不明の日本漁船が釣魚島(尖閣の中国名)周辺の敏感な水域に進入し、中国側はやむを得ず、必要な反応をしなければならない。
これに対し、茂木外相は反論しなかった。その代わり、会談後の定例会見(11月27日)で次のように「弁解」している。
日中外相会談の中で(中略)、我が国の強い懸念を伝えて、中国側がこうした行動をとらないよう、強く申し入れを行ったところであります。
こうした茂木外相の「弁解」に対し、非難の声が相次いだが、それもそのはずだ。事実、じりじりと中国の実効支配は進んでいるのだ。
2012年9月に日本政府が尖閣の主要3島(魚釣島、北小島、南小島)を国有化して以降、中国公船が周辺海域に常駐するようになった。接続水域に侵入した日数は2013年以降、200日以上(海上保安レポート2020)。第11管区海上保安本部によると、2020年については328日(12月24日時点)にのぼる。
中国の経済発展ぶりと国力増強政策を踏まえれば、戦狼外交を展開する習近平政権下において、尖閣諸島の実効支配化がなお進むことを誰もが予想するだろう。
こうした日中首脳らの話し合いで、話題にのぼるのは尖閣海域で漁労に従事する沖縄を中心とした日本の漁師たちの動きだ。そもそも、王外相に「所属不明の日本漁船」とまで言われてしまう漁船とはどんな船なのか。
中国関連情報を配信するニュースサイト「レコードチャイナ」の記事によると、米華字メディア「多維新聞」が以下のように報じたという。
今年5月に日本の右翼活動家が漁船に乗って尖閣諸島付近の海域を航行し、中国の公務船によって駆逐され、6月にも同じ活動家が漁船に乗って同海域で中国の海警船による監視を受けながら「作業」を行う事案が発生したと伝えた。
また、ジャーナリストの高野孟氏は、自身のメールマガジンで「『右翼のデモンストレーション船』であり、(中略)バックアップしているのは安倍親衛隊の有力議員を中心とする右翼議員らである」としている。
これらの記事の内容は本当だろうか。

第11管区海上保安本部の統計では、2020年、尖閣諸島周辺(接続水域及び領海)で、中国海警船が漁船を追尾したケースは7件(12月24日時点)で、多維新聞や高野氏が指摘する6月の漁船について、海保は「確認せず」とのことだ。ゆえに実際は8件となる。