2021年01月08日 12:08 公開


アメリカがワシントンの連邦議会議事堂で7日に起きた暴力行為に揺れる中、深刻な疑問が投げかけられている。米政治の中枢でなぜこれほど大規模なセキュリティ侵害が起きてしまったのかと。

議事堂では上下両院の議員がジョー・バイデン次期大統領とカマラ・ハリス次期副大統領の勝利を最終認定する手続きを進めていた。その最中に、ドナルド・トランプ大統領の何千人もの支持者が歴史的、政治的にアメリカで最も重要な建物に侵入できたことが理解しがたいと、多くの人が感じている。

当時の様子をとらえた複数の写真や映像からは、暴徒が議事堂内部を歩きまわれる状況だったことがわかる。多数のトランプ氏支持者が、米民主主義のシンボルを荒らしたり、破壊する様子を写真に収めたりし、ライブストリーミングをする人の姿も確認できる。

トランプ氏支持者の議事堂襲撃がオンラインでライブ中継され、世界中のニュースネットワークで報じられると、米議会警察(USCP)の準備態勢や対応に多くの人が疑問を呈した。議事堂とその敷地の保護という役割を担う議会警官は約2000人いた。

支持者たちの襲撃を受け、議事堂内にいた一部議員はガスマスクを付けて安全な場所へ避難する前に、床に伏せる事態となった。暴徒が議事堂から排除されて安全が確認されたのは、襲撃から数時間後のことだった。

そして、支持者集団による混乱の深刻さと規模の割には、6日夜までの逮捕者の数は比較的少なかった。

セキュリティ上の失策とは

今回の襲撃をめぐり、警察の準備不足が批判の的となっている。

ソーシャルメディア上の複数の動画には、群衆に向かって1列に並んでいた少人数の警官がほどなくして圧倒される様子が映っていた。群衆の中には武装したり、武器やスプレー剤を振り回す者もいた。

暴力行為が始まってから数時間後には、一部の抗議者が逮捕されることなく議事堂の外へと連れ出された。議事堂の階段から下りるのを助けてもらったり、外へ出る際にドアを開けてもらったりする場面もあった。また、議事堂内にいる男性の自撮りにポーズを取って応じる警官をとらえた動画が拡散された。

米極右団体「プラウド・ボーイズ」のメンバーとして知られるニック・オクス氏は、議事堂内での自撮り写真をツイート。後に米CNNに対し、「建物内には何千人もの人がいて、状況をコントロールできていなかった。私は(警察に)止められたり、質問されたりはしなかった」と語った。

ある画像には、笑みを浮かべた暴徒の1人が顔を隠し、民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長の机の上に足を乗せたり、ペロシ氏のオフィスから盗んだとみられる手紙を見せびらかしたりする様子が写っていた。

マスクを着けていない男性は南北戦争時代の南部連合の旗を掲げて行進。有名な陰謀論者はフェイスペイントを施し、角や毛皮をまとい、数時間前までマイク・ペンス副大統領が座っていた椅子のそばでポーズをとっていた。

政治家は警察について何と?

議会襲撃を受け、多数の議員が責任者の退任を要求している。

民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務は、民主党が上院を掌握したあかつきには、マイク・ステンガー上院警備局長を解任する方針だと明かした。

ペロシ氏はポール・アーヴィング下院警備局長が辞任すると述べた。

暴力行為がエスカレートする中、ほかの治安部隊がいつ派遣されるのか、あるいはそもそも派遣されるのかをめぐって混乱が生じていた。

複数の米メディアは高官筋の話として、トランプ氏は当初、首都ワシントンの州兵の動員に消極的な態度を示したが、マイク・ペンス副大統領が出動を承認したと報じた。

これが事実であれば、昨年にBlack Lives Matter運動が全米に広がった際に、トランプ氏が呼びかけたあからさまな武力行使とは全く対照的な姿勢だ。昨年の抗議運動では、州兵が抗議者や略奪行為をする人に対して催涙ガスやゴム弾を使って激しく対応した。

BBCのゴードン・コレーラ安全保障担当編集委員は、こうした対照的な姿勢は、トランプ政権下では安全保障に関する決定がいかに政治化されているかを強調していると指摘する。

まもなく副大統領に就任するカマラ・ハリス氏は、同国は2つの司法制度を目の当たりにしていると述べた。

「1つは昨日、過激派に米連邦議会議事堂への襲撃を許したもの。そしてもう1つは昨年の夏、平和的な抗議者に催涙ガスを放ったものだ。ただただ受け入れがたい」

集団に対する取り締まりの専門家で、英政府の顧問を務めるクリフォード・ストット教授は今回の襲撃について、「重大で非常に決まりの悪い警察の失態」により、いくつもの疑問が生じるだろうと指摘する。

ストット氏は現在、ワシントン州シアトルでのBlack Lives Matter運動をめぐる警察の対応を分析している。首都ワシントンの警察の複雑な構造を考慮したとしても、エスカレートするトランプ氏支持者の動きに対して、警察が準備不足だったようだと話す。

「何が起こるのか予測できなかったため、いざという時の準備が不足していた」と、ストット氏はBBCに述べた。

さらに、「これは警察の対応の複雑さだけの問題ではない。そもそも、リソースが必要になるかどうか判断する、リスク評価のレベルが低水準だったようだ」とした。

警察の批判に対する反応は

USCPのトップ、スティーヴン・サンド氏は7日、法執行官50人以上が負傷したと認めつつ、自身の部隊や関係各所について、数千人の抗議者に「勇敢に」対処したと述べた。

「米議会での暴力的な攻撃は、私がここワシントンDCの法執行機関で30年間過ごしてきた中で経験したことのないものだった」

サンド氏は同じ声明の中で、USCPが今回の事案について、セキュリティ計画の手順を含め徹底的な見直しを行っていると説明した。

暴力行為が起きる前に分かっていたことは

議会での選挙結果の認定を阻止するためのトランプ氏支持者の集会は、自然に起こったものではなかった。昨年11月の大統領選後にトランプ氏と一部の共和党員が選挙結果を覆そうと主張をエスカレートさせる中で抗議が計画された。

集団暴力とフーリガンの心理に関する研究で知られるストット教授はBBCに対し、公然と犯罪を犯している暴徒に「喜び」のムードが漂っていることがとりわけ興味深いと述べた。

「この集団には非常に明確な目的があり、自分たちの行動は合法であるとの考えに突き動かされていた。彼らの大統領が最高司令官として、彼らにこうした行動をとるのを認めたと、彼らは認識していた」

「それに、議会そのものが汚職に支配されているとの考えがあったからだ」

襲撃の数日前(実際には数週間から数カ月前)には、トランプ氏支持者の過激派と極右グループが使用しているオンラインプラットフォームを監視する人々は、選挙結果をめぐり、議員に対する暴力行為など、議会での暴力行為を推奨する論調がみられたと警告していた。

ワシントンに詰め掛けたトランプ氏支持者の中には、2021年1月6日という日付と共に、トランプ氏のスローガン「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」の略語「MAGA」を付けた「MAGA内戦」と書かれた服を着ている者もいた。

暴徒に対する法的措置は

マイク・ペンス副大統領など複数の議員たちは今回の襲撃に関与した人物について、法の及ぶ最大限の範囲で起訴するよう求めている。

多くの大胆な行動や、当時の状況を捉えた映像の数をふまえると、検察が起訴に必要とする証拠は十分そろっているだろう。

米フェイスブックが襲撃を扇動したり推奨するための動画を削除する中、一部のオープンソース調査官はクラウドソースの識別のために証拠をアーカイブに残すよう人々に求めた。しかし拡散している画像に見られる人物の多くは、極右団体や「QAnon(キュー・アノン)」と呼ばれる極端な陰謀論関連などで、すでに知られている人物だ。

議会警察は7日、「刑事告訴の対象となる可能性がある」ほかの人物を特定するために、監視カメラや資料の見直しを進めていると明かした。

法律の専門家たちは、襲撃に関与した人物は、政権打倒扇動の共謀などの罪で起訴される可能性があるとみている。有罪となれば、20年の禁錮刑に処される可能性がある。

(英語記事 Questions mount over US Capitol security failure