2021年01月12日 10:48 公開

ドナルド・トランプ米大統領の支持者たちによる議会襲撃を受け、野党・民主党は11日、大統領が「反乱を扇動」したとする弾劾条項を含む訴追決議案を連邦議会下院に提出した。

民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は「大統領は我々の憲法、国、そしてアメリカ国民に対する差し迫った脅威となっている。直ちに大統領を罷免しなければならない」と述べた。

民主党は、マイク・ペンス副大統領が憲法上の権限を行使してトランプ氏を罷免しないのであれば、13日にも採決を行うとしている。

ペンス氏は憲法修正第25条の発動による罷免に反対しているとされる。

修正第25条とは、大統領が心身状態の不調から職務が遂行できなくなった場合の措置を定めたもの。手続き中はペンス氏が大統領代行となる。ただし、トランプ氏が書面で議会に異議を申し立てた場合、解任には連邦議会両院の3分の2以上の賛成が必要となる。

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5人の死者を出した6日の議会での暴動を受け、トランプ氏の辞任や罷免、あるいは弾劾を求める声が民主党や一部共和党の議員の間で高まっている。

当時議会では上下両院の合同会議が開かれ、州ごとに選挙人団の投票を開票し、ジョー・バイデン次期大統領とカマラ・ハリス次期副大統領の勝利を最終認定する手続きが行われていた。

議会襲撃の前、トランプ氏はホワイトハウス前の支持者集会で昨年11月の大統領選挙の結果が「盗まれた」と、証拠を示さず主張。支持者の議事堂襲撃をあおったとされる。

ホワイトハウスは「政治的動機」による動きだと弾劾に反発している。8日にツイッターやフェイスブックなど複数の個人アカウントが凍結されたトランプ氏は公の声明は出していない。

トランプ氏はバイデン氏が大統領に就任する1月20日正午をもって大統領職を去ることとなる。バイデン氏の大統領就任式には出席しないと表明している。

下院がトランプ氏の弾劾を求めるのは2019年12月以来2度目となる。当時下院はトランプ氏を権力乱用と議会妨害で弾劾訴追したが、翌2020年2月に与党・共和党が多数の上院が弾劾条項2項目について無罪評決を下した

弾劾手続きが2度もとられた米大統領は、過去にいない。しかし、上院は1月20日まで共和党が多数派。解任が認められるには、下院の過半数のほか、上院の3分の2以上の賛成が必要なため、今回も同氏が弾劾裁判で有罪になる可能性は低い。

弾劾訴追決議案の内容は

民主党議員3人が起草した訴追決議案には、「反乱を扇動」したとする弾劾条項が含まれる。3議員は議事堂がトランプ氏支持者に一時占拠される中、決議案を作り始めた。

決議案には「ドナルド・ジョン・トランプは、合衆国政府への暴力を意図的に扇動し、『重罪と軽罪』を犯した」とある。

また、「連邦議会議事堂での差し迫った無法行為」に至った行動を鼓舞する発言を大統領がしたと非難している。

この行動は、バイデン次期大統領の当選認定を「覆し妨害しようとした、従前の努力と合致する」として、「これによって大統領としての信任に背信し、合衆国の国民に明らかな危害をもたらした」と、決議案は糾弾している。

修正第25条の発動は

民主党は11日、ペンス副大統領と内閣がトランプ氏の職務不適格を宣言することを可能にする憲法修正25条の発動を、ペンス氏に正式に要請する決議案を提出した。

決議案は「恐怖におびえる国民に対し、大統領は職務上の義務と権限をうまく遂行できていないと、明確に宣言」するようペンス氏に求めた。

しかし予想されていた通り、共和党のアレックス・ムーニー下院議員(ウェストヴァージニア州選出)がこの要求に異議を唱え、下院では全会一致で採択されなかった。

下院は、決議案の採決が行われるとみられる12日朝まで休会に入っている。

採決後、民主党は弾劾に向けて手続きを進める前にトランプ氏を退陣させられるよう、ペンス氏側に24時間の猶予を与えるという。

「アメリカに対する大統領の脅威は差し迫っており、我々の対応もまた同様だ」と、ペロシ氏は述べた。

ペンス氏はトランプ氏と距離を置いているようだが、修正第25条を発動する気配はない。

弾劾手続きの今後の展開は

弾劾手続きは長期戦になることが多い。調査や公聴会などによって、結論が出るまでに数週間かかる場合があるからだ。今回の場合は、それよりも速いスピードで進むことが予想される。

11日に弾劾決議案が下院に提出されたことで採決への道が開かれた。下院で賛成多数となれば、上院での弾劾裁判へうつることとなる。

しかし上院内部のあるメモによると、上院が弾劾手続きに着手できるのは早くてもトランプ氏の任期満了の前日1月19日になる可能性がある。

上院は現在休会中で、再開の日程を変更するには上院議員100人全員の同意が必要となるが、その可能性は極めて低い。

トランプ氏が退任しても弾劾手続きを上院に移せるのか、憲法の専門家の間で意見が割れている。しかし民主党は、下院でトランプ氏の弾劾訴追を決議し、後日上院で裁判を行えると確信しているようだ。

民主党のジェイムズ・クライバーン下院院内幹事は10日、バイデン氏の大統領就任から100日間は、上院に弾劾裁判の開催を求めない可能性があると述べた。

弾劾手続きとは

合衆国憲法第2条第4節は、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と規定している。

弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院がそれぞれ持つ。

下院がこの弾劾決議案を可決した後、上院が弾劾裁判を行う。上院議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領を解任できる。

現在の下院では、定数435議席のうち民主党が235議席を占めているため、弾劾訴追が成立する可能性は高い。

一方の上院は、定数100議席のうち共和党が53議席を占める。解任の動議成立に必要な3分の2以上の賛成票を得るには、多数の共和党議員が造反する必要があるため、大統領が実際に解任される見通しは少ない。

政府と共和党は、弾劾裁判は最長2週間とするよう求めている。

過去の大統領で弾劾訴追されたのは、アンドリュー・ジョンソン第17代大統領とビル・クリントン第42代大統領のみだが、上院の弾劾裁判が有罪を認めなかったため、いずれも解任はされていない。

リチャード・ニクソン第37代大統領は弾劾・解任される可能性が高まったため、下院司法委の弾劾調査開始から3カ月後に、下院本会議の採決を待たずに辞任した。

(英語記事 Democrats start move to impeach Trump again