2021年01月14日 10:21 公開

米連邦議会の下院は13日、議事堂が襲撃された事件で「反乱を扇動」したとして、ドナルド・トランプ大統領を弾劾訴追する決議案を可決した。

投票結果は賛成232票、反対197票だった。与党・共和党の議員10人が、弾劾訴追を求めた民主党に同調した。

トランプ氏は任期中に2度の弾劾訴追を受けた、つまり罪を犯したとして議会から訴追された、米史上初の大統領となった。

今後は上院で弾劾裁判が開かれる。有罪評決が出れば、トランプ氏は再び大統領職に就くことが禁止される可能性がある。

ただ、上院は休会中ですぐに再開の予定はないため、トランプ氏は20日正午に任期を満了する見通し。

トランプ氏は昨年11月の大統領選挙で野党・民主党のジョー・バイデン氏に敗れたため、20日に退任する。

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民主党が多数派の下院ではこの日、数時間にわたって激しい議論が交わされた後、採決に移った。その間、議事堂の内外には武器を携えた州兵が配置された。

トランプ氏は下院での採決後にビデオを公表。支持者に向けて平静を保つよう呼びかけた。しかし、弾劾訴追が決議されたことには言及しなかった。

トランプ氏は、「暴力と破壊行為はこの国では認められない(中略)私の真の支持者に、政治的暴力を容認する人は1人もいない」と、厳粛な面持ちで和解を呼びかけるように語った。

その上でトランプ氏は、「表現の自由に対する最近の攻撃」を批判。これはツイッターなど多数のソーシャルメディアで自分のアカウントが凍結されたことを念頭に置いたものと思われる。ツイッター社はトランプ氏のアカウントのほか、トランプ氏支持の陰謀論を推進するアカウントを多数凍結した。

一方、バイデン氏はツイッターに、「手続きは上院に移って続く。上院が憲法で規定された弾劾に関する責任を果たすとともに、この国にとって急を要する他の仕事にも取り組むことを望む」と投稿した。

この日の論戦

弾劾決議案の採決の前には、先週の襲撃現場だった議場で、与野党の議員らが主張を繰り広げた。

民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、「アメリカの大統領がこの反乱、私たちの国に対するこの武装反逆を扇動した」、「彼は去らなくてはならない。私たち全員が愛する国にとって、彼は明確で差し迫った危険になっている」と述べた。

民主党のフリアン・カストロ議員は、トランプ氏を「大統領執務室の主となった中で最も危険な人物」と表現した。

共和党議員の多くは、トランプ氏の主張を擁護しなかった。その代わり、今回の弾劾は慣例となっている聴聞会が開かれていないと批判。国の結束のため、弾劾訴追は断念するよう民主党側に求めた。

共和党のケヴィン・マカーシー下院院内総務は、「これほど短期間で大統領を弾劾するのは間違いだ」と主張。

「大統領に間違いがなかったと言っているわけではない。大統領は水曜日(6日)の暴徒らによる議会襲撃の責任を負う」と述べた。

トランプ派のジム・ジョーダン議員(共和党、オハイオ州)は、民主党が政治的報復のため、危険を顧みずに国家を分断していると非難。

「これはアメリカの大統領を追い落とそうとするものだ」、「いかなる場合も、これまでずっと大統領を狙ってきた。とりつかれている」と訴えた。

トランプ氏の嫌疑

決議案の弾劾訴追の内容は政治的なもので、刑事的なものではない。トランプ氏について、今月6日にホワイトハウス前の集会で、連邦議会議事堂に乱入するよう扇動したとしている。

トランプ氏はその際、支持者に対して「平和的かつ愛国的に」各自の意見を届けようと訴えかけた。ただ同時に、大統領選が盗まれたと虚偽の主張をし、「猛烈に闘う」支持者に呼びかけた。

トランプ氏はさらに支持者たちに、「みんなでペンシルヴェニア通りを歩いて、みんなで議事堂へ行こう」と呼びかけた。登壇したルディ・ジュリアーニ弁護士は「決闘裁判をやろう」などと発言していた。

こうした数々の発言があった後、トランプ氏の支持者らは議事堂に乱入。場内では憲法で定められた大統領選の結果認定作業が進行中だったが、審議は中断を余儀なくされた。議員らは避難を余儀なくされ、議事堂は封鎖された。この襲撃で5人が死亡した。

トランプ氏は襲撃開始後にも、議会を襲撃する支持者を「愛国者」とたたえ、「大好きだ」と呼びかけ、選挙に圧勝したのは自分だと繰り返していた。

今回の弾劾決議は、トランプ氏が「大統領選挙の結果は不正で認められないと主張する誤った声明を繰り返し出した」としている。

また、「群衆に向かって意図的に声明を出し、議事堂における法を無視した行動をそそのかし、予見可能だった事態を招いた」と非難。

「トランプ大統領はアメリカと政府機関の安全を深刻に脅かし、民主主義の制度に脅威を与え、平和的な政権移行を妨害し、政府と同等の機関(議会)を危険にさらした」とした。

大統領選をめぐっては、この議会襲撃後に再開した審議で、共和党議員139人が引き続き選挙結果を否定し、トランプ氏の敗北を認めなかった。

今後どうなる?

弾劾訴追の決議は上院に送られる。上院は弾劾裁判を開き、大統領の罪の有無を判断する。

トランプ氏が有罪となるには、上院議員の3分の2の多数票が必要だ。上院は20日以降、与野党がちょうど50議席ずつを分け合っており、共和党議員の少なくとも17人が民主党議員に同調しなければ有罪評決には至らない。

米紙ニューヨーク・タイムズは12日、共和党上院議員の最大20人が、大統領を有罪とする票を投じる可能性があると報じた。共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務も、有罪議決に反対していないという報道もある。

仮にトランプ氏が上院で有罪とされた場合、議員らはトランプ氏が再び公職に立候補することを禁止するための採決を開くことができる。トランプ氏はすでに、2024年大統領選への立候補の意向を示している。

ただ、弾劾裁判がトランプ氏の任期中に開かれる予定はない。

共和党のマコネル上院院内総務は声明で、「規則や手続き、大統領の弾劾裁判に関する上院の前例を考慮すれば、バイデン次期大統領が来週就任する前に、公正で真剣な裁判が完結する可能性はない」とした。

また、議会が安全で整然とした政権移行に集中することが、もっとも国益にかなうと主張した。

20日以降に上院多数党の院内総務となるチャック・シューマー上院議員(民主党)は声明で、「上院の裁判は直ちに始められるはずだ」とマコネル氏に反論しつつ、上院は大統領の有罪を問う採決をすることになるし、「もし大統領が有罪になれば、二度と出馬できないようにする採決も行う」と述べた。

BBCのアンソニー・ザーカー北米担当記者は、共和党は弾劾訴追によって、あくまでトランプ氏を支持する勢力と、トランプ氏の攻撃的な政治手法とは決別し、不確実な将来へと歩み出す勢力とに分かれることになると解説した。

これまでの米大統領で、弾劾訴追されて職を追われた人は1人もいない。トランプ氏は2019年に下院で弾劾訴追が決議されたが、上院で無罪となった。同様のことは、1998年にビル・クリントン大統領、1868年にはアンドリュー・ジョンソン大統領に起きた。リチャード・ニクソン大統領は1974年、下院司法委員会が弾劾訴追案の内容に合意した後、辞任した。

(英語記事 Trump impeached for 'inciting' US Capitol riot