ラリー遠田(お笑い評論家)

 少し前までのお笑い業界では「芸人がユーチューブをやるのはダサい」という空気があった。プロの芸人の主戦場はライブとテレビであり、それ以外のネットメディアなどは格が低いものと見られていた。

 ライブでは生身の観客から笑いをもぎ取る。テレビはそもそも出ること自体が1つのステータスであり、そこでは歴戦の実力派芸人によるハイレベルな掛け合いが繰り広げられている。

 そのような「戦場」に比べると、一般人でも気軽に参入できるユーチューブは、プロの芸人にとっては格下のメディアだと思われていた。そのため、そこで必死になるのはみっともないという漠然としたイメージがあった。

 だが、今ではそのように考える芸人はほとんどいないだろう。潮目が変わったきっかけは、2018年にキングコングの梶原雄太が「カジサック」としてユーチューブチャンネルを始めたことだ。「2019年の年末までに登録者数が100万人に達しなかったら芸人を引退する」と宣言して、不退転の覚悟を示した。

 ユーチューブを片手間で始める芸人も多かった中で、梶原は本気で取り組み、密度の濃い動画を配信し続けた。努力のかいあって19年には登録者数が100万人を突破して、現在では人気ユーチューバーの地位を確立している。

 梶原のような名の知れた芸人がユーチューブで結果を出したことで、芸人がユーチューブに参入する動きが活発になった。梶原に触発されてオリエンタルラジオの中田敦彦が19年に始めた「中田敦彦のYouTube大学」は、本稿執筆時点で登録者数337万人を超えており、芸人ユーチューバーの中ではトップクラスの人気を誇っている。

 2020年には大物芸人の参入も相次いだ。雨上がり決死隊の宮迫博之、ロンドンブーツ1号2号、東野幸治、とんねるずの石橋貴明など、テレビで冠番組を持つようなレベルの大物らが、続々とユーチューブの世界に足を踏み入れて話題をさらっていった。
インタビューを受けるカジサック(キングコング・梶原雄太)=2019年4月、大阪市中央区の吉本興業本社
インタビューを受けるカジサック(キングコング・梶原雄太)=2019年4月、大阪市中央区の吉本興業本社
 芸人の立場から見ると、ユーチューブはテレビよりも企画の自由度が高く、やりたいことをそのままの形でやることができる。さらに、ある程度の再生回数を獲得すれば、テレビに劣らないほどの収入を得ることもできる。大物芸人が本気で取り組む価値のあるメディアだと認識されるようになったのだ。