2021年01月18日 11:19 公開

昨年8月に神経剤を使われ死亡しかけたロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(44)が17日夜、治療を受けていたドイツからロシア・モスクワに帰国し、ロシア当局に即刻拘束された。アメリカや欧州連合(EU)はロシア政府に対し、ナワリヌイ氏の釈放を求めているが、現地の裁判所は30日間の勾留を命じた。

ベルリンから帰国したナワリヌイ氏は、モスクワ郊外のシェレメチェヴォ空港の入管窓口で警察に拘束された。当初はモスクワ郊外のヴヌウコヴォ空港に到着する予定で、数千人の支持者が集まっていたものの、到着空港が変更された。

モスクワ郊外ヒムキの警察署に留置されたナワリヌイ氏に対して、警察署内で臨時に設置された裁判所の判事は、同氏が執行猶予中の出頭義務に違反したとして、2月15日までの勾留を命じた。ナワリヌイ氏については以前の詐欺罪などに対する3年半の禁固刑が猶予中だが、実刑判決に切り替えるかを判断するため、1月29日に次の審理が開かれることになった。

ナワリヌイ氏は昨年8月、ロシア・シベリアを旅客機で移動中に体調が悪化。同国の病院を経て、ドイツ・ベルリンの病院に移送された。ドイツ政府は9月、ナワリヌイ氏に対して神経剤ノビチョクによる毒殺が図られた「明確な証拠」があると発表した。ナワリヌイ氏は、ロシア当局が自分を暗殺しようとしたと主張している。ロシア政府は一切の関与を否定しているものの、複数の調査報道がナワリヌイ氏の主張を支える結果となっている。

あえて帰国を決断したナワリヌイ氏をロシア当局が即座に拘束したことについて、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長やフランスやイタリア政府などが、ロシアを批判し、同氏をすぐに釈放するよう求めている。ただし、制裁や懲罰的行動には触れていない。

20日に就任するジョー・バイデン次期米大統領の国家安全保障問題担当補佐官となるジェイク・サリヴァン氏は、「クレムリン(ロシア政府)によるナワリヌイ氏への攻撃は、人権侵害というだけでなく、意見表明したいロシアの人々を侮辱するものだ」と批判した。

20日まで米国務長官のマイク・ポンペオ氏はツイッターで、「ロシアによるアレクセイ・ナワリヌイの逮捕決定を深く憂慮している。自信のある政治リーダーは競合する声を恐れないし、政敵への暴力や、違法な逮捕を必要と考えない」と書いた。

イギリス政府も、ナワリヌイ氏の逮捕を「深く心配している」とコメントし、「ロシア当局は恐ろしい犯罪の被害者を責めるのではなく、どうしてロシア国内で化学兵器が使われるに至ったのかを捜査すべきだ」と呼びかけた。

事態の展開は

ナワリヌイ氏は昨年夏、シベリア・トムスクからモスクワへ向かう機内で倒れ、緊急着陸した現地の病院を経て、ベルリンで治療を受けた。旧ソ連が冷戦中に開発した猛毒の神経剤ノビチョクが使用されたと、欧州の複数の研究機関が特定した。

ナワリヌイ氏は9月に退院し、療養を続けていた。最近では腕立て伏せやスクワット体操ができるようになるまで、回復したと話していた。さらに、ロシア当局が自分を毒殺しようとしたのはウラジーミル・プーチン大統領の指示によるものだとしつつ、帰国するつもりだと表明していた

帰国すれば直ちに逮捕されると警告されながら、ナワリヌイ氏は17日、ベルリン均衡の空港からロシアのポベーダ航空機に乗ってモスクワへ向かった。

同じ便には多くの報道陣も同乗。BBCロシア語のアンドレイ・コゼンコ記者も乗っていた。着陸直前に機長が「技術的な理由」で、着陸予定地がヴヌウコヴォ空港からシェレメティエヴォ空港に変更されたとアナウンスしたため、乗客の間に動揺が広がった。

飛行機が着陸するとナワリヌイ氏は支持者や報道陣に、「自分は正しいと承知している。何も恐れていない」と述べた。入管審査の警備員には、「長いことお待たせしましたか」と話しかけた。

警察に拘束すると告げられ、もし命令に従わないならば強制的に拘束すると警告されると、ナワリヌイ氏はドイツから付き添っていたユリア夫人に口付けをしてから、拘束に応じた。顧問弁護士が同行許可を強く求めたが、認められなかった。

ナワリヌイ氏はその後、モスクワ郊外の警察署で留置された。

ナワリヌイ氏の帰国便が到着する予定だったヴヌコヴォ空港には、機動隊が増員され、空港内には複数の金属フェンスが設置された。

ロシア・メディアによると、空港に集まった複数の支持者が拘束された。ナワリヌイ氏を支持する著名弁護士のリュボフ・ソボル氏もその中に含まれているという。

拘束の理由は

ロシアの連邦形執行庁は17日に声明を発表。ナワリヌイ氏が「執行猶予期間中の規則に繰り返し違反したため、2020年12月29日以降、指名手配中だった」として、裁判所が判断を示すまで勾留は続くとした。

ナワリヌイ氏は過去に公金横領罪で有罪になり、執行猶予判決を受けている。2018年大統領選では、この判決を理由に出馬を阻止された。ナワリヌイ氏は自分に対する有罪判決は政治的なものだと、一貫して反発している。

ロシア当局はこの執行猶予に伴う出頭義務などの違反を、今回の拘束理由としている。

これとは別に、ロシアの検察は新たに別の詐欺罪で同氏を訴追しようとしている。

ナワリヌイ氏は、プーチン政権が自分に対して新しい罪状を捏造(ねつぞう)することで、自分の帰国をなんとしても阻止しようとしていると主張していた。

ロシア保安庁が関与か

昨年12月には調査報道サイト「ベリングキャット」などが、ナワリヌイ氏を長年監視していたとされるロシアの連邦保安庁(FSB)の工作員3人が、同氏と同時期にトムスクにいたと報道。さらに、ナワリヌイ氏が身元を伏せてFSB工作員に接触し、神経剤ノビチョクを使った自分への攻撃の詳細を聞き出した様子を伝えた。

ナワリヌイ氏はFSB工作員コンスタンティン・クドリャフツェフ氏との通話を録音し、オンラインで公表。その中で工作員は、ノビチョクをナワリヌイ氏の下着に入れたと話している。

こうした報道をプーチン大統領は「トリック」だと批判。ナワリヌイ氏はアメリカ情報機関の支援を受けていると主張している。

(英語記事 Russia Navalny: Poisoned opposition leader held after flying home / EU and US demand release of poisoned Putin critic