2021年01月31日 12:13 公開

世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスのワクチンについて30日、欧州連合(EU)域内で製造されたワクチンの輸出を制限するというEUの発表を批判し、パンデミック長期化の原因となりかねないと警告した。

EUは、製薬会社の製造の遅れで当初約束された量が確保できていないことから、輸出制限を発表した。

WHOのマリアンジェラ・シマオ事務総長補氏は、EUの決定は「非常に憂慮される傾向」だと述べた。

これに先立ちWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は今月半ば、一部の国や地域がワクチンを溜め込んだりすれば、「パンデミックは燃え続け(中略)世界経済の回復は遅れる」と指摘。それに加えて、国際的な格差の拡大をもたらす「壊滅的な道徳上の失敗」になると警告している。

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WHOのマーガレット・ハリス報道官は30日、BBCに対して、これまでに実施されたワクチン接種の95%はわずか10カ国に集中しており、接種が始まった低所得・中所得の国は2カ国のみだと指摘。それだけに、接種事業が進んでいる先進国が感染リスクの比較的低いグループへの接種を開始する前に、全世界の医療従事者は高リスク・グループへの接種を実現するべきだと、報道官は強調した。

EUは何をしているのか

ワクチンを開発した製薬大手と納品の遅れをめぐり紛糾(ふんきゅう)するEUは、ワクチンを作る会社がEUとの契約義務を履行していない場合は、EU域内で製造されるワクチンの輸出を禁止する権限を加盟国に与えると発表した。

このいわゆる「透明性・委任メカニズム」について、欧州委員会は「我々の市民を保護し安全を守ることが優先課題で、現在の難問を前に、行動するほかはない」と述べている。

これによって、イギリスを含む約100カ国が影響を受けるが、一部の途上国など92カ国を輸出制限から免除している。貧しい地域にワクチンを供給するための国際的取り組み「COVAX」へのワクチン寄付も継続する。

ただし、この輸出制限をめぐりEUは当初、加盟国アイルランドと英・北アイルランドの国境がEUからイギリスにワクチンを運ぶ「裏口」にならないよう、国境管理の復活を発表したものの、イギリスのEU離脱協定に違反するとイギリス政府が強く反発したため、EUは国境管理復活は撤回した。

EUは、ワクチンに関する制限は一時的なもので、輸出禁止ではないと主張している。

EUの新規則では、製薬会社がEU域内からワクチンを域外へ輸出する際には、EUに許可を申請しなくてはならず、加盟27カ国がその申請を点検することができる。

製薬会社との対立

EUは現在、ワクチンを開発した英アストラゼネカと表立って対立しているほか、接種事業の遅れから厳しい批判を受けている。

欧州委員会は29日には、英オックスフォード大学とワクチンを開発したアストラゼネカとの契約内容を公表し、同社の納品が大幅に遅れていると主張を重ねた。

これに対してアストラゼネカは、オランダとベルギーにある同社工場で製造が遅れたほか、契約締結に遅れが出たことが、納品に影響していると説明している。

米ファイザー社がベルギーで作っているワクチンは現在、イギリスへ輸出されている。EUは、英イングランドで製造されているアストラゼネカ社のワクチンの一部は契約上、EU市民に供給されるべきものだと主張している。

EUへのワクチン納品については、ファイザー社も3月末を期限とするEUへの供給量が達成できない見通しで、ここでも対立が生じている。ファイザー社は納品遅れの理由について、ベルギー・プールスの工場を急きょ拡大する必要があったからだと説明している。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長によると、EU主導のワクチン接種事業が欧州の団結と力強さを象徴するはずだったが、一部のEU加盟国の間では、欧州委員会への不満が出始めていると指摘する。

欧州委員会と製薬各社の交渉の遅れに始まり、EUの医薬品規制当局によるワクチン承認の遅れや、現在の供給の遅れに、加盟国の間で不満が高まっているという。

独バイエルン州の首相で、アンゲラ・メルケル独首相の後任に有力視されているマルクス・ゼーダー氏は29日、独ZDFテレビに対して、欧州委員会のワクチン発注は「遅すぎて、発注先が少なすぎた」印象だと話した。その上で、「EUに典型的な、いかにも官僚的な手続きで価格を決めて、状況の根本的な重要性を完全に軽視していた」と批判した。

(英語記事 Coronavirus: WHO criticises EU over vaccine export controls