2021年02月01日 13:38 公開

欧州連合(EU)は1月31日、英・スウェーデンの製薬大手アストラゼネカが3月までに新型コロナウイルスのワクチンを900万回分追加供給することになったと発表した。ワクチン供給の遅れで批判され、アストラゼネカと対立していた欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「前進」だと歓迎した。

これでアストラゼネカからは4000万回分が確保できたことになるが、なお予定の半分にしか満たない。

EUでは製薬各社の生産遅延により、各国のワクチン接種事業に遅れが出ている。

しかし、域内で生産されたワクチンの輸出を制限すると発表したことで、世界保健機関(WHO)などから批判を受けているほか、EUを離脱したイギリスと軋轢(あつれき)が生まれている。

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フォン・デア・ライエン委員長によると、この追加供給により、アストラゼネカからの流通量が30%増加した。また、供給が1週間前倒しされた。

アイルランドのRTEによると、同国は10万回分を新たに確保したという。

EUはアストラゼネカと3億回分の供給契約を先行で結んでいるほか、1億回分の追加オプションも獲得している。

当初は第1四半期(1~3月)に8000万回分が供給される予定だったが、アストラゼネカはオランダとベルギーの工場で問題があり、供給が遅れると発表。60%削減されるという報道もあった。

こうした中、EUは1月26日にワクチン確保に向けた「透明性・委任メカニズム」を発表した。これは、製薬会社がEU域内からワクチンを域外へ輸出する際には、EUに許可を申請しなくてはならず、加盟27カ国がその申請を点検できるというもの。

さらに、この輸出制限をめぐりEUは当初、英・北アイルランドがEUからイギリスにワクチンを運ぶ「裏口」にならないよう、加盟国アイルランドと北アイルランドの国境管理の復活を発表した。しかしEU離脱協定に違反するとイギリス政府が強く反発したため、EUは国境管理復活は撤回している。

欧州委員会と製薬会社が協議

フォン・デア・ライエン委員長はまた、ワクチン製造各社とビデオ会議を行ったことを明らかにした。

「COVID-19の変異株にどう対処するか、ワクチンの生産拡大をどう行っていくか、未来のパンデミックにどう備えるかを協議した」

その上で、「夏が終わるまでに域内の成人の70%にワクチンを受けさせる目標」を引き続き維持していくと語った。

ドイツの公共放送ZDFに出演した委員長は、「我々の敵はウイルスであり、製薬業界は解決策の一部だ」と述べた。


<解説> EUへの損害 ――カティヤ・アドラー欧州編集長

北アイルランドの国境をめぐる問題で、ブレグジット(イギリスのEU離脱)協議がどれだけ長引き、困難を極めたか覚えているだろうか。EUはイギリス政府に繰り返し、この国境をめぐる条項を尊重するのかいかに大切かを説き、そこに北アイルランドの平和がかかっていると強調していた。

しかし欧州委が26日に「透明性・委任メカニズム」を発表した際、それが間違いであったにせよ、意図的でなかったにせよ、北アイルランドに対する懸念は簡単に無下にできるのだという印象を与えてしまった。

欧州委はその日のうちに、北アイルランドに関する部分を撤回した(もっとも、EU製のワクチンが北アイルランドを通じてイギリスの他地域に流通した場合、この問題をあらためて持ち出す権利は保持しているのだが。)

アイルランドのミホル・マーティン首相はEUのこの判断を歓迎した。しかしアイルランドや北アイルランド、そしてイギリス国内の政治家や報道機関の反応を見ると、EUはすでに大きな損害を受けているようだ。


(英語記事 WHO、ワクチン輸出制限めぐりEUを批判