2021年02月02日 12:40 公開

フローラ・ドルリー記者、BBCニュース

ミャンマー国軍は1日、国家の権力を掌握したと宣言した。同国では1962年の軍事クーデター以降軍事政権が続き、10年前に民政移管の合意がなされた。

今回のクーデターは、2011年に民主的統治に移行するまでの約50年間、抑圧的な軍事政権に耐えてきたミャンマーの人々を恐怖で震え上がらせた。与党・国民民主連盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー国家顧問(75)や複数の政治家が1日早朝に拘束されたことで、多くの人が過去に置き去りにしたいと思っていた日々を思い出した。

アウンサンスーチー氏と、かつて国内での活動を禁じられたNLDは、2015年に行われた25年間で最も自由で公正な選挙で勝利を収めてから5年間、ミャンマーを率いてきた。同政権は1日に2期目に入るはずだった。

しかしその裏で、軍はミャンマー(ビルマとしても知られる)における権力をかなりしっかりと維持してきた。連邦議会の4分の1の議席をあらかじめ国軍に割り当てることや、同国で最も権力のある省庁を支配する権限を憲法で保障されているからだ。

ではなぜ今、国家の権力を掌握したのだろうか。そしてもっと重要なことだが、次に何が起きるのだろうか。

<関連記事>

「トランプ前米大統領的」不正疑惑

なぜこのタイミングなのかは簡単に説明がつくと、BBCのジョナサン・ヘッド東南アジア特派員は指摘する。1日朝には昨年11月の総選挙後初の議会が召集されるはずだったからだ。

総選挙ではNLDが得票率80%以上で大勝した。軍によるムスリム(イスラム教徒)系少数派ロヒンギャの虐殺疑惑に直面する中でも高い人気を維持した。

軍の後ろ盾を受ける野党派は投票直後、不正行為があったと主張し始めた。今回のクーデターで大統領代行に任命されたミン・スエ氏は、自身の署名入りの声明の中で、総選挙で不正があったと繰り返し主張。1年に及ぶ非常事態宣言を正当化した。

「ミャンマー選挙管理委員会(UEC)は2020年11月8日に行われた複数政党による総選挙で、大規模な有権者名簿の不正を解決できなかった」と、国軍出身でNLD政権下で副大統領を務めたミン・スエ氏は述べた。

しかし、この不正疑惑を裏付ける証拠はほとんどない。

「アウンサンスーチー氏が総選挙で圧勝したのは明らかだ」と、人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」(HRW)アジア支部のフィル・ロバートソン氏はBBCに述べた。「選挙で不正行為があったとの疑惑が出ている。どれも証拠のないものばかりで、いささかトランプ氏的な主張だ」。

仮に不正があったとしても、今回の国軍の行為は「不可解」だとロバートソン氏は指摘する。

「(総選挙の結果が)権力の喪失を意味したというのか? 答えはノーだ」

「国家の父」にとってきまりの悪い理由が?

昨年11月の総選挙では、国軍系の最大野党・連邦団結発展党(USDP)はわずかな票しか獲得できなかったようにみえるかもしれない。だがそれでも、国軍は政府に対して大きな影響力を維持できている。軍事政権下の2008年に制定され物議を醸した憲法のおかげだ。

現行憲法は国軍に議会議席の4分の1を自動的に与えるだけでなく、内務省や国防省、国境省の主要3省の支配権も付与している。

つまり、現行憲法が変わらない限り、国軍はある程度の支配力を維持できるわけだ。

だが、多数派のNLDが改憲することはできるのだろうか。

BBCのヘッド東南アジア特派員は、改憲には議会で75%の支持が必要であることから、少なくとも25%を軍が占めている状況では実現はほぼ不可能だと指摘する。

元ジャーナリストのアイ・ミン・タント氏は、国軍の行動には別の理由があるかもしれないと示唆。軍にとっての「不面目」を挙げる。

「彼ら(国軍)は(総選挙で)負けるとは思っていなかった」と、アイ・ミン・タント氏はBBCに述べた。「軍関係者の家族を持つ人たちが、反対票を投じたに違いない」。

もちろんそれだけではない。

「国軍がこの国における自分たちの地位をどう見ているのか、理解する必要がある」と同氏は付け加える。「国際メディアはアウンサンスーチー氏を(ミャンマーの)『母』と呼ぶのを通例としている。国軍は自分たちのことをこの国の『父』だと考えている」。

その結果、軍は国の統治において「義務と資格」があると感じている。また、ここ数年で国際貿易がさらに開かれつつあるなか、現在の社会状況が気に食わないのだという。

「彼ら(国軍)は特によそ者を危険視している」

新型コロナウイルスのパンデミックや、昨年11月の総選挙でロヒンギャに選挙権が与えられなかったことをめぐる国際的懸念が、国軍を今行動させたのかもしれないと、アイ・ミン・タント氏は示唆している。そうだとしても、やはり今回の行動は驚きだった。

今後どうなる

専門家たちは、国軍がなぜ今このような行動に出たのか、確信がもてていないようだ。国軍が得られるものはほとんどないと思われるからだ。

「現行制度が国軍にとって非常に有益であることを忘れてはならない。国軍には完全な指揮権や、商業的利益における大規模な国際投資、戦争犯罪をめぐる民間人からの政治的保護がある」と、シンガポール国立大学アジア研究所の博士研究員、ジェラルド・マッカーシー氏はBBCに説明する。

「国軍が発表したとおり1年にわたって権力を掌握すれば、中国以外の国際パートナーと孤立し、軍の商業利益が損なわれ、アウンサンスーチー氏とNLDを権力の座に就かせた数百万人からの抵抗が強まることになる」

マッカーシー氏は、おそらく国軍は将来の選挙でのUSDPの地位を向上させたいと考えているのだろうとしつつ、このような動きには「重大な」リスクが伴うとしている。

HRWのロバートソン氏は今回の動きについて、ミャンマー国内の人々の怒りを買う一方で、同国を再び国際社会から疎外される「パーリア国家」にしてしまう恐れがあると指摘する。

「ミャンマーの人々がこれを受け入れるとは思わない」とロバートソン氏は付け加える。「国民は将来、軍事政権に戻ることは望んでいない。彼らはアウンサンスーチー氏を軍政回帰を防ぐとりでだと考えている」。

ロバートソン氏は、交渉による解決の可能性も残されているが、「大規模な抗議行動が始まれば、重大な危機に陥ることになる」としている。

(英語記事 Myanmar's coup: Why now - and what's next?