佐野正弘(ITライター)

 2020年9月の首相就任後から、菅義偉(すが・よしひで)氏は力を注いできた携帯電話料金の引き下げに「政権公約という思いで取り組む」と意欲をあらわにしていた。そして、菅首相は武田良太総務相を通じて携帯電話業界に強いプレッシャーをかけ、値下げを迫った。

 その結果、同年12月3日に打ち出されたのがNTTドコモの「ahamo(アハモ)」である。アハモは、街中のドコモショップで契約申し込みやサポートを受け付けない、オンライン専用の料金プラン。複雑な割引条件がなく、月額2980円(税抜、以下同じ)で20GBのデータ通信と1回当たり5分間の国内通話が無料で使えるという、非常に高いコストパフォーマンスでたちまち大きな評判となった。

 アハモの評判を受ける形で、ライバル他社も相次いで対抗プランを打ち出している。ソフトバンクは同月22日、傘下のLINEモバイルを吸収して提供する新しいブランドコンセプト「SoftBank on LINE」を明らかにし、やはり月額2980円で20GBというプランを提供すると発表した。

 KDDIも21年1月13日にオンライン専用の新料金プラン「povo(ポヴォ)」を発表。1回5分の無料通話を月額500円のオプションとすることで、20GBのデータ通信を含む基本料を月額2480円にした。スマートフォン上で手軽にオプションを追加できる「トッピング」という仕組みの導入で2社との差別化を図ったのだ。これだけ急ピッチに各社が対抗策を打ち出したことからも、アハモが業界に与えたインパクトは非常に大きかったことが分かる。

 これらのプランが料金を安く抑えられたのは、先にも触れた通り「ドコモショップ」「auショップ」などの店舗でサポートしない、オンライン専用の料金としたためだ。携帯電話ショップの運営には大きなコストがかかることから、それをカットすることで大幅な料金引き下げを実現できたわけだ。

 これだけ安価で大容量の料金プランが出てきたとなると、高額で大容量である従来のプランから契約者が「流出」し、携帯各社の業績が悪化することは避けられないだろう。各社はここ数年、料金引き下げによる業績の下落に備えて通信以外の事業拡大を推し進めていたのだが、今回は政府の圧力があり、急ピッチでの料金引き下げが求められたことから、想定以上に業績を悪化させる企業が出てくる可能性もある。

 となると、推し進められるのがコスト削減であり、とりわけ矛先が向けられそうなのが携帯電話ショップである。オンライン専用プランが一般化し、携帯電話ショップを訪れる人が減るとなれば、無駄なコストを省くためにもショップの整理が避けられないからだ。
東京・大手町のドコモショップ
東京・大手町のドコモショップ
 携帯電話ショップはこれまで、シニアを中心としたスマホ初心者をサポートし、社会のデジタル化を推し進める上で重要な拠点の役割を担ってきた。スマホが使えない人がデジタル時代の社会弱者となってしまうだけに、サポートの場とコストを誰が用意するのかという問題が新たに浮上してくることになるだろう。

 他にもコスト削減の影響は、ネットワーク整備や今後の研究開発などさまざまな部分で出てくるだろうが、致命的な影響が出るほどには至らないのではないかと筆者は見る。実際、ドコモはアハモを1年前から企画していたとしているし、20年には日本電信電話(NTT)の完全子会社化となっており、強力なバックアップを得ている。KDDIもポヴォに類するサービスを、同年11月に設立した子会社を通じて仮想移動体通信事業者(MVNO)として提供する計画を立てていた。各社は料金引き下げに備え、ある程度は態勢を整えていた。