
2021年02月10日 12:34 公開
アメリカの連邦議会襲撃事件を扇動したとして弾劾訴追された、ドナルド・トランプ前大統領の弾劾裁判が9日、上院で始まった。初日は弾劾裁判の合憲性をめぐる採決があり、賛成多数で合憲とされた。10日に実質的な審理が開始される。
採決の結果は賛成56票、反対44票だった。トランプ政権で与党だった共和党の議員6人が、「反乱を扇動した」としてトランプ氏の弾劾を求める民主党に同調し、賛成票を投じた。
トランプ氏の弁護団は投票に先立ち、弾劾裁判は違憲だと主張。大統領を退任した人物を弾劾裁判にかけることはできず、手続きの適正さも欠いていると訴えた。
また、ジョー・バイデン政権で与党となった民主党について、政治的な動機に基づいて行動しており、悪意があると非難した。
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襲撃や演説のビデオを上映
民主党はこの日の審理でまず、先月6日に連邦議会議事堂が襲われた様子や、その直前のトランプ氏の演説のビデオを上映。
「弾劾マネジャー」と呼ばれる検察官役の下院議員の1人、ジェイミー・ラスキン氏(メリーランド州)が、「ここに重罪や軽罪が映っている」、「これが弾劾に相当しないなら、相当するものは何もない」と訴えた。
また、襲撃当日は議会内に娘がいて、彼女が危険な目に遭っていないか心配したと、涙ながらに振り返った。
そして、「これがアメリカの未来であってはならない」、「憲法にのっとった民意を受け入れられないとして、政府と憲法に対して暴力を扇動する大統領を認めるわけにはいかない」と述べた。
さらに、退任する公職者を弾劾裁判の対象から外す「1月の例外」を認めれば、危険な前例をつくることになると主張した。
弁護士は「憲法を侮辱」と反論
一方、トランプ氏の弁護士のデイヴィッド・ショーン氏は、2017年のビデオ映像を上映。民主党内にトランプ氏の「弾劾を求める飽くなき欲望」があることを示す証拠だとした。
「民主党が憲法の名の下に実現しようとしているのは、ドナルド・トランプが再び政治職に立候補するのを禁じることだ。しかしそれは、誰が標的なのかに関係なく、憲法に対する侮辱行為だ」
多くの米メディアは、トランプ氏がこの日、フロリダ州でテレビで弁護士の主張を見て、怒りをあらわにしたと報じた。
トランプ氏に忠誠な議員
上院は現在、民主党と共和党が50議席ずつ分け合っている。
この日の採決は、両党の勢力をほぼ反映した結果となった。同時に、共和党にはトランプ氏に忠誠な議員らが、有罪評決を防ぐのに十分な人数存在していることを示した。
弾劾裁判でトランプ氏が有罪となるには、上院議員の3分の2以上の賛成が必要。
有罪とされた場合、トランプ氏は公職に就くことが禁止される。
これからどうなる
民主党側とトランプ氏側は10日昼以降、主張を述べる時間が16時間ずつ与えられる。
弁論は週末まで続くとみられる。その後、陪審員役の上院議員らに質疑の機会が与えられる。
弾劾マネジャーが証人を呼び、審理の延長を求めるのかは不明。トランプ氏は任意での証言には応じないとしている。
与野党の議員らは、新型コロナウイルス対策も進める必要もあることから、弾劾裁判の審理は迅速に行うことで一致しているとされる。
有罪か無罪かを決める投票は、早ければ15日にも実施される見通し。
BBCのアンソニー・ザーカー北米担当記者は、弾劾裁判は始まったばかりだが、最終的な結果はほぼ確実だと分析。
この日の裁判の合憲性をめぐる採決は、判例から民主党が支持を集めやすかったにもかかわらず、共和党から民主党に同調した議員は6人にとどまった。そのことからも、トランプ氏が有罪評決を受ける可能性は低いと解説した。