八塚正晃 (防衛省防衛研究所地域研究部中国研究室研究員)

 中国の人民解放軍は、2019年7月に公表した国防白書において、「情報化戦争への変化が加速し、智能化戦争が初めて姿を現している」との戦争認識を初めて示した。この智能化戦争とは、「モノのインターネット(IoT)システムに基づき、智能化した武器装備とそれに対応した作戦方法を利用して、陸・海・空・宇宙・電磁・サイバーおよび認知領域で展開する一体化戦争」と言われる。人民解放軍は、智能化戦争に適応するために、今後、自身の軍隊編成、武器装備体系、訓練体系を変化させていくと考えられる。

 智能化戦争の登場は、これまでの戦争の形態を大きく変容させるとみられる。指揮や戦略方針を決定する際に高い演算能力を持つ装置を導入することで、人工知能(AI) やマシンラーニングなどの技術が、相手の正確な意図を分析・判断して指揮官に提供するだろう。このために、より一層作戦テンポが速まり、智能化技術の優劣が戦争の全局にわたる帰趨を決することになる。また、汎用型のAIを導入することで自律化した武器・装備が広まり、戦場の無人化が進むだろう。

 人民解放軍が智能化戦争を認識することになった契機は、米国が14年末に第三次オフセット戦略において、AIなどの軍事開発利用を国防革新イニシアティブの中に位置付けたことにある。人民解放軍は、第三次オフセット戦略が智能化を核心とする新たな軍事における革命を呼び起こすことになるだけでなく、中国を主要な競争相手に想定していると認識した。以降、人民解放軍は、軍事の智能化に関する理論研究を進めており、最近では「制智権(智能化領域を支配するパワー)」といった言葉を用いてAIなど新興技術の軍事利用を新たな戦略的な攻略ポイントとして注目し始めている。

 習近平政権も軍事の智能化を積極的に進める姿勢を見せている。先端技術の利用が将来戦の帰趨の鍵を握るようになるため、米中対立が激化する中で重要な時機を捉えて新たな軍事における革命の流れを先取りすることによって、人民解放軍が米軍を〝曲がり角で追い越す〟ことが可能になるかもしれない。これが、習近平政権が軍事の智能化を進める論理である。

 ただ、智能化戦争への移行は一足飛びに進むわけではない。ある人民解放軍の研究者の見立てによれば、人民解放軍の将来ビジョンに連動するように、今後30年ほどの年月をかけて進むという(下図)。人民解放軍は現在、ようやく自身の装備・兵器の機械化を実現し、情報化を引き続き進めている段階であるが、今後は智能化戦争の発展プロセスへの歩みを徐々に加速させていくであろう。

 20年10月に開催された中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)では、27年の人民解放軍の「建軍100年の奮闘目標」が新たに掲げられた。この奮闘目標の中身は明らかにされていないが、人民解放軍の強軍化の成果を内外へアピールするための建軍100周年軍事パレードでは、最先端の智能化装備・兵器が披露されるかもしれない。

 人民解放軍は今後、智能化兵器を用いた実戦的な訓練や演習を実施するほか、周辺地域での哨戒活動で無人機や智能化装備を運用したり、紛争地域へ智能化武器・装備を積極的に輸出していく可能性がある。

 一般的に軍事における革命は実戦を通じて飛躍的に進むとされるが、実戦場面がないため、中国は何か有事がない限り、平時において智能化戦争への適応を進めなければならない。AIの判断能力向上のために良質なビッグデータを用いた学習が必要であり、智能化装備の実戦に近い運用データの蓄積が重要となろう。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 中国の周辺海域では高圧的な中国海警や活動範囲を広げる漁民などの活動が注目されるが、今後はこうした権益主張活動が智能化された無人機によって担われるケースが増えるかもしれない。中国国内の議論では、軍事の智能化を推進することで、無人機による哨戒活動における人員の削減、突発事件におけるAIによる的確な対処などが可能になるとの期待がみられる。

 既に日本の周辺海域においても17年5月に尖閣諸島の領海内において中国の小型無人機が一定時間飛行し、18年4月にも中国の偵察用無人機と見られる航空機が尖閣諸島北側の日本の防空識別圏内を数時間にわたって飛行する事案が発生している。

 また、世界における無人機の輸出の半分以上を中国が占めており、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクなど中東諸国では既に中国製の武器搭載可能な無人機が実戦運用されている。こうした周辺地域での運用や紛争地域への智能化兵器の輸出・運用など、いわば疑似的な実戦経験を通じて、データの補完・充実を図っていく可能性がある。