田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 新型コロナウイルス対策で2回目の緊急事態宣言が1月7日に発令されてから、延長も含めると1カ月半が経過した。日本経済は相変わらず厳しい環境に直面している。パートやアルバイトなどを中心にした雇用の悪化、企業や個人事業主、フリーランスの経済的な苦境は深刻だ。では、どのくらい厳しい経済環境なのかを簡単に推計してみよう。

 経済の困難の尺度を見る一つの目安に「需給ギャップ」がある。これは「(実際のGDP-潜在GDP)/潜在GDP」で定義される。GDP(国内総生産)は直観的に言えば経済の大きさ、実際のGDPは現時点での経済の大きさであり、潜在GDPは言ってみれば経済の潜在能力である。

 例えば、需給ギャップがマイナスの値をとるということは、日本経済がその潜在能力をうまく活用していない状況であり、冒頭に書いた日本経済の現状があてはまる。労働や資本(機械や設備など)を完全に利用していないのだ。つまり、潜在GDPとは、日本経済が有する労働や資本を完全に利用したときに実現される経済の大きさ(GDP)のことである。

 需給ギャップを知ることは、経済政策を評価する上でも重要である。最近、バイデン米政権の1・9兆ドルの経済対策を巡って経済学者が論争をしている。日本でよくあるような、財政緊縮派と財政積極派の争いでなはい。むしろ財政積極派の中で、やりすぎかやりすぎでないかの論争である。正直、うらやましい論争である。

 この論争では、ローレンス・H・サマーズ元財務長官とオリヴィエ・ブランシャール元IMFチーフエコノミストのコンビに、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授が対立して意見を交わしている。特にサマーズ氏とブランシャール氏は、米国経済の需給ギャップに対して、米政権の経済対策が大きすぎてインフレが加速しすぎてしまい、連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き締めで対応すると経済への反動が大きいと主張する。繰り返すが、経済が過熱するほどの景気対策の見通しがない日本からするとうらやましく思える。
GDPなどの公表を受け、記者会見する西村康稔経済再生相=2021年2月15日、東京都千代田区(永田岳彦撮影)
GDPなどの公表を受け、記者会見する西村康稔経済再生相=2021年2月15日、東京都千代田区(永田岳彦撮影)
 論争の決着はともかくとして、需給ギャップが重要なのは分かるだろう。日本の直近の需給ギャップは、2020年10~12月期のものを見なければいけないが、まだ正確な数字は分かっていない。西村康稔経済再生相は、「ざっくり言って20兆円程度(年率換算、マイナス値)」と最近の記者会見で話している。前期(7~9月期)はマイナス34兆円だったので、かなり需給ギャップは縮小した。つまり、それだけ経済が回復基調にあったということだろう。

 第3次補正予算の追加歳出は19兆1761億円であり、規模感だけ見るとほぼ10~12月期の需給ギャップの大きさに匹敵する。実際には追加歳出には「乗数効果」だとか支出のタイムラグだとか、深刻な論点として政府からお金を支援してもらう枠組みを国民が認知していない問題がある。ただ、規模感としては、第3次補正予算で、ほぼ昨年10~12月期の年率換算した需給ギャップは「埋まる」。

 さらに、今年に入ってからはどうだろうか。冒頭のように、緊急事態宣言の再発令で経済は落ち込んでいる。この落ち込み(=需給ギャップのマイナス方向への拡大)を簡単に推測してみよう。