2021年02月27日 10:39 公開

米政府は26日、2018年にトルコでサウジアラビア人記者が殺害された事件は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が「拘束または殺害を承認した」と結論した調査報告書を公表した。サウジアラビア政府は米政府の報告を「否定的で事実と異なり、容認できない」と反発している。

バイデン米政権は、事件に関与したサウジアラビアの元高官ら数十人への制裁措置を発表したが、皇太子は制裁対象に含めなかった。

サウジアラビア政府に批判的な同国出身の記者、ジャマル・カショジ氏(当時59)は2018年10月、トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺され、遺体を切断された。

米国家情報長官事務所(ODNI)の報告書はこの事件について、「サウジ記者ジャマル・カショジ氏をイスタンブールで拘束もしくは殺害するための作戦を、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が承認したと、我々は判断する」と書いた。

85歳のサルマン・ビン・アブドルアジーズ・アール・サウード国王に代わり、サウジアラビアの実質的な支配者とされるムハンマド皇太子(35)は、関与を否定している。

ODNI報告書は、皇太子がカショジ記者殺害作戦を承認したと判断する根拠を、次のように3つ挙げている。

  • 王国の政策決定権は2017年以降、皇太子が掌握している
  • 皇太子の顧問や直属の警備担当が作戦に直接関わっている
  • 「在外反政府派を沈黙させるため暴力的な手段を支持」している

報告書は、カショジ記者殺害に責任者や関与したとされる関係者を名前を挙げて特定しているが、計画がどれくらい事前に練られていたかは不明だとしている。

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サウジアラビア当局は、カショジ氏を帰国させようとした工作員らによる「勝手な作戦」だったとした。同国の裁判所は殺害に関わった5人に死刑判決を言い渡したが、昨年9月に禁錮20年に減刑した。

2019年には国連のアニエス・カラマール特別報告者が、サウジアラビア国家がカショジ氏を「意図的に計画的に処刑」したのだと調査報告を発表。サウジアラビアの裁判を「正義と正反対」のものだと批判している。

カショジ記者とは

カショジ氏は、サウジアラビア政権に批判的なことで知られていた。2018年10月、トルコ人婚約者との結婚に必要な書類を入手するため、イスタンブールのサウジアラビア総領事館に出向いた。

カショジ氏はこれに先立ちに、皇太子の弟で当時サウジアラビアの駐米大使だったハリド・ビン・サルマン王子から、総領事館を訪れても安全だと保証されていたとされる。一方のハリド王子は、カショジ氏と連絡を取ったことはないと主張している。

サウジアラビアの検察当局によると、カショジ氏は総領事館で工作員らともみ合いになり、体を押さえつけられて大量の薬物を注射された。その後まもなく薬物中毒で死亡した。遺体は切断され、総領事館の外で現地の「協力者」に手渡されたという。遺体は発見されていない。

残忍な犯行の詳細は、トルコ情報当局が入手した殺害時の録音とされる音声の文字起こしによって明らかになった。

カショジ氏はかつて、サウジアラビア政府の顧問を務め、王室とも近かった。しかし王室から嫌われ、2017年にアメリカで自ら逃亡生活に入った。

以来、米紙ワシントン・ポストに毎月コラムを執筆。ムハンマド皇太子の政策を批判した。

米・サウジ関係への影響は

ODNI報告書の公表から間もなく、アントニー・ブリンケン米国務長官は、「国外の反政府活動に対する深刻な妨害行動に直接関与した者」に対する渡航制限を発表し、これを「カショジ制裁」と呼んだ。

ブリンケン長官は、「外国政府の意向を受け、その政府に批判的とされる人物を標的にする者が、アメリカ国土に到達することは許されない」と述べた。

渡航制限に加え米財務省は、皇太子の側近で事件に関わったアフマド・アシリ元情報機関高官や王室警備隊の精鋭部隊などを、資産凍結を含む制裁対象に指定した。

米中央情報局(CIA)は2018年の時点ですでに、皇太子がカショジ記者殺害を指示したものと結論していたとされる。ただし当時のトランプ政権はCIAの結論を公表しなかった。

世界最大の原油輸出国サウジアラビアは、アメリカにとって長年、中東地域で極めて重要な連携相手。しかし、ジョー・バイデン大統領は前任のドナルド・トランプ氏よりも人権や法治主義をめぐりサウジアラビアに厳しい姿勢をとるものとみられている。

バイデン大統領は25日、カショジ記者殺害に関する政府報告書の公表に先駆け、サウジアラビアのサルマン国王と電話で協議した。

ロイター通信が伝えた消息筋の話によると、バイデン政権は人権侵害の懸念からサウジアラビアへの武器売買を中止するほか、将来的な武器供与を「防衛的」な武器に限定することなどを検討しているという。

サウジ外務省は米報告書に反発し、事件の責任者はすでに適切な捜査を受け、司直による審判を受けていると強調した。

「王国はこの凶悪な犯罪をはっきり非難し、王国指導部はこのような悲劇が2度と起きないよう必要な措置をとった。それなのに、不当で不正確な結論のこの報告書が公表されたことは、実に残念だ」と、サウジ外務省はコメントし、自国の「指導部や主権や司法制度の独立に抵触する一切の動き」を拒否するとした。

<解説> バーバラ・プレット・アッシャー BBC米国務省担当特派員

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の責任を米政府が公然と問いただしたのは、異例の非難だ。しかし皇太子はこれまでのところ、誰から非難されても、制裁を受けていない。活動家も米連邦議会の民主党も、国連の特別報告者も、皇太子に責任をとらせるよう求めているのだが。

今回の報告書公表は慎重に計画されたもので、バイデン大統領がいかに難しい綱渡りしようとしているかが見て取れる。サウジアラビアの人権侵害を非難し、責任をとらせるという公約に沿って行動する一方で、バイデン氏は王国との関係を維持したいのだ。中東でアメリカにとって重要な諸問題、たとえばイエメン戦争の終結、イランとの交渉再開、イスラム過激主義への対抗、アラブ諸国とイスラエルの関係強化などにおいて、サウジアラビアの役割が期待されているからだ。

その一方でバイデン氏は、前任のトランプ氏と異なり、自分は皇太子と直接やりとりをしないと、姿勢を明示した。

だからこそバイデン氏は皇太子ではなく、その父のサルマン国王と協議したのだ。

(英語記事 Jamal Khashoggi: US says Saudi prince approved Khashoggi killing