2021年02月27日 12:45 公開

イギリスの最高裁判所は26日、イギリスからシリアへ渡航しイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に参加したシャミマ・ベガムさん(21)の帰国を認めない判決を下した。

最高裁は満場一致で、帰国要請が認められなくてもベガムさんの権利は侵害されていないと判断した。

ベガムさんは2015年、15歳でISに参加するためにロンドンからシリアに渡航。2019年2月にシリアの難民キャンプで発見され、イギリスに帰りたいと訴えていた。

これに対しイギリスのサジド・ジャヴィド内相(当時)は、ベガムさんにはバングラデシュ出身の母親を通じてバングラデシュの市民権があるとして、安全保障の観点からベガムさんの市民権をはく奪。しかし、バングラデシュ政府も同国の市民権を認めなかった

ベガムさんは現在もシリア北部のキャンプに滞在しており、イギリスの市民権回復のために帰国したいと要請していた。

2020年7月には、シリアにいる状態では内務省の判断に抗議できないとして、英控訴院がベガムさんに帰国を認めるべきと判断した。これに対して内務省は「多大な国家安全保障上のリスクを生み出す」として、最高裁に上告していた。

国家安全保障上の要請を優先

最高裁長官のリード卿は判決文で、ベガムさんの帰国の是非を決める権利は政府にあると判断を示した。

「最高裁は満場一致で内相の控訴を支持し、ベガム氏の交差上訴を棄却する」

「内相にはこのような判断を下し、議会に説明する責任がある」とリード卿は認め、控訴院の判決には内相の情勢判断を「十分に尊重していない」と指摘sいた。

また「控訴院は、個人の公平な陳述権と(中略)国家安全保障上の要請が衝突した場合、ベガム氏の権利が優先されなくてはならないと、誤って信じていた」と指摘。公正な陳述の権利は「公共の安全など、他のあらゆる懸念事項に勝るものではない」と述べた。

その上で、ベガムさんの帰還を政府に強制するのではなく、ベガムさんが今より安全に市民権を主張して争えるようになるまで、市民権に関する訴訟を停止するのが適切な措置だと結論した。

「どれだけ時間がかかるか分からない以上、これは完璧な解決策ではない。しかしこの種のジレンマに完璧な解決策は存在しない」

現職のプリティ・パテル内相は最高裁の判決を歓迎し、「国家安全保障上の重要な判断を下す内相の権限が再確認された」と述べた。

ジャヴィド氏は、「この状況を解決できる簡単な方法などないが、ベガム氏が直面している権利と自由の制限はすべて、本人が政府のガイドラインや常識を破って行った過激な行動の直接的な結果だ」と話した。


シャミマ・ベガムさんとは

ベガムさんはバングラデシュ系イギリス人の両親の元に生まれ、イギリスの市民権を持っていた。

2015年2月、学校の友人だったカディザ・ソルタナさんとアミラ・アベイスと共に、ISに参加するためにイギリスを出国。トルコ経由でシリアのISの本拠地だったラッカに向かった。

ラッカでは、オランダ出身で当時IS戦闘員だったヤゴ・レディク受刑者(オランダで不在のままテロ罪で有罪、現在シリアの拘置所で収監)と結婚した。

ベガムさんはIS支配下のシリアで3年以上暮らした。2019年2月に難民キャンプで発見された当時は妊娠9カ月だった。

この赤ちゃんは後に、肺炎のため難民キャンプで死亡した。ベガムさんは他にもレディク受刑者との間に2人の子どもををもうけたが、共に亡くなっている。


人権擁護団体は反発

ベガムさんの訴訟を支援する人権擁護団体リバティーは、最高裁の判決は「非常に危険な前例となる」と指摘した。

同団体のロージー・ブリッグハウス弁護士は、「公正な裁判を受ける権利やイギリスの市民権は、民主主義の政府が思いつきで剥奪(はくだつ)して良いものではない」と述べた。

「治安当局は何百人もの人を安全にシリアから帰還させている。それなのにイギリス政府は、シャミマ・ベガムだけを標的にした」

別の人権団体リプリーヴのマヤ・フォー会長は、ベガムさんの帰国を認めないのは「責任転嫁を図ろうとする政府の悪だくみだ」と反発した。

「欧州各国と同様、イギリスにもシリアにいる抑留者を帰国させられるはずだ。その多くはインターネット上で勧誘され、売買され、10代のうちにイギリスを離れた」

「こうした人々を司法のブラックホールに、米グアンタナモ刑務所のような状況に捨て置くのは、イギリスの価値観、そして正義と安全双方の利益から外れる」

(英語記事  Shamima Begum cannot return to UK, court rules