鳩山内閣の正体は“ゼンガクレン”


 鳩山首相はじめ閣僚が、公約の撤回や迷走を繰り返し、恥じないわけは、学生時代に摺り込まれた「反安保」「反自衛隊」や甘えの幼児体質が抜けていないからではなかろうか。

(1)安保騒動の再発
 米軍普天間飛行場の移設問題は、安保騒動時の学生が閣僚になって起こしており、「安保騒動」の再発である。日米両国は、安保条約締結以来、信頼性の維持、向上に努めてきた。特に、命をかけて戦うのは自衛官と米軍人であるが故、日米双方の「軍人」は互いの信頼を高めるためあらゆる努力を重ねてきた。

 かく言う筆者も陸上自衛隊東北方面総監部装備課長(一佐)の頃、日米共同訓練に参加した。参加した米軍人は一朝有事の際、我が国のために馳せ参じてくれる。信頼と友好を深めるため、訓練開始前と終了後、米軍人を官舎に招き、妻の手料理でもてなした。

 国の防衛のためには軍隊も基地も必要だと十二分に理解していても、自分は兵隊になりたくない、基地が近くにできるのも反対、他人が兵隊になり、基地も遠くにつくり、自分を守ってくれ、が本音である。自衛隊のヘリ基地周辺に居住する元自衛官から、冗談混じりではあるが、現役時代はヘリの音を騒音と感じなかったが、退官後は五月蠅く感じるようになったと聞いた。

 それ故、基地周辺の住民を説得し、理解を得るよう努力するのが国家の指導者の使命である。普通の人は、現行計画の変更を主張する場合、代替案を準備するが、鳩山首相は、政権を取るために、口から出任せに国外や県外への移設を主張し、現行計画に協力を表明していた容認派の知事、市長などを見殺しにし、県内容認派をも県外派に追いやった。

 鳩山内閣は発足以降、米軍普天間飛行場移設問題だけではない、海上自衛隊のインド洋からの撤収など日米同盟の信頼低下に繋がることばかりをしてきたため、アメリカの我が国に対する信頼度はかなり低下したと考えるべきである。最善と考え合意した現行計画で決着しても、失われた信頼は元には戻らない。「覆水盆に返らず」である。一朝有事の際、アメリカからの過大な支援を期待してはならず、自力防衛を準備すべきだが、逆に防衛費を削減している。

 有事駐留の発想は、自分たちは豊かな場所で贅沢な暮らしをし、兵隊にもならず、アメリカの若者をグアムやテニアンに追いやり、外敵の侵攻を受けた時だけは、日本を守れということだ。そのような便利なものはこの世の中には存在しない。「助っ人」を丁重にもてなすのが常識人であり、それが嫌なら自分の身は自分だけで守ることだ。

 我が国に限らず、米軍は駐留するだけで抑止力なのである。例えば、北朝鮮軍が韓国に侵入すれば、在韓米軍と自動的に交戦状態になる。アメリカは在韓米軍を助けるためにも本国などから必ず軍を増派する。これが韓国防衛を確実にするのである。別の見方をすれば、在韓米軍は“人質”なのである。

 米軍基地を日本から撤去すべきだと主張するのであれば、「憲法を改正して軍隊を持ち、国民に兵役の義務を負わせ、防衛費にしてもGDPの0・9%ではなく、欧米諸国並みの、例えば、米国:3・8%、英国:2・4%、フランス:1・9%にすべきだ」(米、英、仏の国防費のGDPのパーセントは平成21年版防衛白書から)と主張し、本人や家族が自衛隊に入隊し、外国人にも支給する「子ども手当」を防衛費に回せば不可能ではない。中国や北朝鮮も徴兵制で、核兵器を持ち、自力防衛体制を確立しているからアメリカに対して堂々と自己主張できるのである。

2010年3月、防衛大学校の卒業式に出席した鳩山由紀夫首相(撮影・栗橋隆悦)
 鳩山首相が「命がけで」と言っても、信用する自衛官はいない。政治家は辞めれば全く防衛に責任がない。小池衆院議員が徳之島で、基地はいらないと叫んでいる姿をテレビで見て、元防衛相として極めて無責任だと憤慨した。筆者は我が国のいかなる場所に自衛隊や米軍の基地を建設しようとも反対しない。多くの自衛官は、国防に生涯を捧げる積もりで入隊したのであり、政治家のような無責任な真似はできない。

 5月4日、鳩山首相が沖縄を訪れ、最低でも県外と公言していたことに対し、「党の考え方ではなく、私自身の(民主党)代表としての発言だ」「学べば学ぶほど、(海兵隊が)連携し抑止力を維持していることが分かった。(考えが)浅かったと言われればその通りかもしれない」(5月5日付産経新聞参照、以下同じ)と述べた。厚顔無恥の発言である。

 65年前の昭和20年5月4日は、沖縄の日本軍が米軍に最後の攻勢を行った日である。そして6月23日、最高指揮官・第三十二軍司令官牛島満中将(自決後、大将)は割腹した。辞世は「秋をも待たで枯れゆく島の青草は 皇国の春に甦らなむ」である。海軍の沖縄方面根拠地隊司令官大田実少将(自決後、中将)も「身はたとえ沖縄野辺に果つるとも 護り続けむ大和島根を」(注:「大和島根」は日本国のこと)を残して6月13日自決した。鳩山首相が「五月末決着」を破棄しても、誰も驚かない。なぜなら、就任直後から数々の約束を反故にしてきたからである。

 鳩山内閣の混迷を見るに見かねて、第四十四普通科連隊長中沢剛・一等陸佐が陸上自衛隊と米陸軍の共同訓練の開始式の訓示で「『信頼してくれ』という言葉だけで(日米同盟は)維持できない」(2月13日付産経新聞)と述べた。「斯くすればかくなるものと知りながら已むに已まれぬ大和魂」(吉田松陰)の心境からの発言であろう。

 この訓示に北沢俊美防衛相は、自分たちの無能や失政を棚に上げ、最高指揮官である首相を揶揄したなどと激怒、第六師団長が北沢防衛相の意向を受けて中沢一佐を「文書注意処分」にした。さらに、火箱芳文陸上幕僚長に対し「なぜ処分をしたか本人にも幹部の皆さんに浸透するよう言ってほしい。今後こういうことが起きないよう注意喚起してほしい」(2月16日付産経新聞)と指導した。

 だが、第十一旅団(北海道・真駒内駐屯地)の中隊長(三佐)が、防衛省の榛葉賀津也副大臣や長島昭久政務官らに「連隊長の発言は総理の指揮統率を乱すものではない」(3月26日付産経新聞)などとの内容のメールを送って抗議、第二特科連隊(旭川駐屯地)の中隊長(一尉)が朝礼で「鳩山総理は普天間基地移転の結論を昨年のうちに出せずにいいかげんだ」(同)と訓示した。2人の中隊長の“罪”は連隊長よりも重い筈であるが、三佐の中隊長は「口頭注意」に、一尉の中隊長は「指導」に留めた。

 『孫子』に「先ず暴にして而して後、其の衆を畏るゝ者は不精の至りなり」とある。「部下を粗雑、乱暴に扱った後、その行為によって部下の反発を畏れるのは、思慮が浅い、愚か者の証拠である」という意味である。

 北沢防衛相は、己の浅はかな行為に反発している自衛官が少なくないことを知って驚き、この事実が公になって連鎖反応の起こることを懸念して、抗議のメールを送った中隊長は、手続きは問題だが、メールの内容は問題ない、朝礼の訓示で首相を名指しで非難した中隊長は公での発言ではないと、内々に済ませたのではなかろうか。が、発生から1カ月以上経ってマスコミの知るところとなった。

 北沢防衛相は、中隊長の反発を伏せる一方、それでは飽きたらず、中沢一佐を陸上自衛隊研究本部主任研究開発官へ左遷した。このようなことでは部下は付いてこない。

 自衛隊員(学生、生徒、予備自衛官等を除く)は入隊と同時に「……事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め、……」と宣誓する。首相、防衛相、防衛省の副大臣、政務官も宣誓すべきである。自分は職務遂行に命を懸けず、隊員に命令する資格はない。

(2)国家・国防意識の放棄
 安保反対を唱える一方、自国の防衛、核の抑止力をアメリカに依存して平和にどっぷり浸かったため、国民は、国家意識、国防意識、軍事常識を放棄してしまった。それ故、普通の主権国家では、信じ難い考えの持ち主が首相や防衛相や外相に就任する。

 昨年11月12日、「天皇陛下御即位二十年をお祝いする国民祭典」の「祝賀式典」が午後5時から7時まで皇居前広場で行われた。参列して舞台に登壇した大臣は、月刊誌『日本の息吹』2月号によれば、鳩山首相、平野博文官房長官、川端達夫文科相、中井洽国家公安委員長、前原誠司国交相の5人、陸海空自衛隊の音楽隊も奉祝演奏した。だが、北沢防衛相、岡田克也外相などの姿はなかった。ちなみに、北沢防衛相も岡田外相も昨年の新閣僚就任会見で国旗に敬礼しなかった。防衛相、外相にあるまじき国家観である。

 鳩山首相は、防大卒業式の訓示で「私が言いたいことは自らが活躍することになる、この世界のことを正しく知れということだ」(3月23日付産経新聞)と大上段に述べたが、激しく伸び続ける中国の軍備増強を脅威と言わず、北朝鮮の核・ミサイルには一切触れず、中国人など外国人にも支給する「子ども手当」に言及、防衛費の削減をも示唆した。場違い、かつ現状認識欠如の訓示に、卒業生は軽蔑し、参列者はびっくり仰天したであろう。

 北沢防衛相は4月8日、参院外交防衛委員会で、佐藤正久議員の米軍普天間飛行場の移設問題に関する質問に対して「一般的にいえば『迷惑な施設』としての米軍の駐留地を建設する。大変な反対の中で犠牲を払ってやっていただくわけで、並大抵のことではない」(4月9日付産経新聞)と述べた。同盟国を「迷惑」扱いした北沢防衛相こそ解任ものである。

 我が国は「核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する」(防衛計画の大綱)としており、我が国の領海に入る米国の艦船は当然核兵器を搭載していると考えるのが少しでも軍事知識のある者の常識である。ロシア、中国などの周辺諸国も我が国の「非核三原則」を信じていないから、核抑止が成り立ってきたのである。ところが、岡田外相は日米「密約」を暴露して鬼の首を取ったごとく喜び、相も変わらず、「非核三原則」を叫んでいる。この能天気な姿に周辺諸国は嗤っているであろう。

(3)日米同盟破壊 中国の一部に
 「60年安保」時、生まれていなかった民主党の前原代表(当時)が平成17年12月、アメリカ、中国を訪問して中国の軍拡は脅威と述べた。

 この発言に対して、胡錦涛国家主席は訪中した前原氏との会談をキャンセル、朝日新聞(12月11日付)は社説で「外交センスを疑う」と非難、民主党の鳩山幹事長(同)は都内の講演で「(中国の)基本的な軍事力の行使は防衛。そのことを信頼すれば必ずしも脅威と呼ぶべき状態ではない」「民主党としては中国が現実的な脅威だと断定しない方がいいのではないか」(12月20日付産経新聞)、菅直人氏はホームページで「昨今の言動が、自民党との差がなく、二大政党としての存在理由が無くなっているという多くの人の指摘に、前原代表自身、真摯に耳を傾けてもらいたい」(12月16日付朝日新聞)、横路孝弘衆院副議長(同)は「無神経な発言だ。理解できない」(12月26日付朝日新聞)と非難した。

 また、社民党の福島瑞穂党首は「小泉内閣の外交より右に行っているのはいかがなものか」(12月15日付読売新聞)などと批判した。

 我が国の防衛費はアメリカの国防費の10分の1以下、一方、中国の軍備の増強は急で、10年を待たずして、実質の軍事費は現在のアメリカの国防費を追い越し、太平洋をアメリカと分かち合い、アジア支配を目指している。これを阻止する手段は、自力防衛を採らない限り、日米同盟しかない。

 にもかかわらず、中国の軍拡を脅威と述べた前原氏は代表を解任されたが、大臣になって沈黙、前原氏を批判した「安保騒動」時代の学生である鳩山氏が首相、菅氏が副総理、横路氏が衆院議長、学生ではなかったが、福島氏も大臣に、その他「騒動」時学生だった旧社会党出身者も閣内に入って日米同盟を弱化させている。

 我が国の現状を見て嗤っているのは中国なのである。すでに遅きに失した感はあるが、我が国が主権国家として生き残れるか否かの瀬戸際にあることに我が国民は気付くべきである。

かきや・いさお 昭和13(1938)年、石川県生まれ。防衛大学校卒業と同時に陸上自衛隊入隊。大阪大学大学院修士課程(精密機械学)修了。その後、陸上幕僚監部防衛部、陸上自衛隊幹部学校戦略教官、陸上幕僚監部教育訓練部教範・教養班長、西部方面武器隊長、防衛大学校教授などを歴任。平成5年に退官(陸将補)。著書に『自衛隊が軍隊になる日』『徴兵制が日本を救う』。
(※iRONNA編集部注:肩書き等は『月刊正論』掲載当時のものです)