2021年03月08日 11:52 公開

スイスで7日に実施された国民投票で、公共の場で顔を覆い隠す服装を禁止する法案が賛成51.2%、反対48.8%の僅差で可決された。禁止対象にはムスリム(イスラム教徒)女性が着用するブルカやニカブなども含まれる。

この法案は右派のスイス国民党(SVP)が提案したもの。同党は「過激主義を止めろ」などといったスローガンを掲げていた。

スイスの主要なイスラム教団体は「イスラム教徒にとって「暗い日」となったと述べた。

「今日の決定は古傷に触れ、法的不平等の原則をさらに拡大し、少数派のイスラム教徒を排除するという明確なシグナルを送るものだ」と、同国のイスラム教中央委員会は声明で主張。裁判所に異議を申し立てるつもりだと付け加えた。

スイス政府は、女性の服装は国家が決めることではないとして、この法案に反対していた。

ルツェルン大学の調査によると、スイスでブルカを着用している女性はほとんどおらず、ニカブを着用している女性は30人程度。同国の人口約860万人のうち約5%がイスラム教徒で、その多くはトルコやボスニア、コソボの出身者だ。


直接民主制をとるスイスでは、国民に直接的な発言権が与えられている。国民は定期的に国民投票や地域投票に参加し、様々な問題について票を投じる。

スイスの国民投票でイスラム教に関連するものがあがったのは今回が初めてではない。2009年には政府の勧告に反し、モスクのミナレット(塔)建設の禁止の是非を問う国民投票が行われた。これもまた、ミナレットがイスラム教化の象徴であると主張したSVPの提案によるものだった。

今回の提案はイスラム教に直接言及せず、街頭で暴力的に抗議する人たちがマスクを着用するのを阻止することを目的としていた。しかし、国民投票は「ブルカ禁止」に関するものだと広く受け止められていた。

またこの提案は、新型コロナウイルスが世界的に流行する前に示されたもので、スイスの成人は現在、多くの場面でマスクを着用しなければならない状況になっている。

スイスのムスリム・コミュニティーに属するサニジャ・アメティ氏はBBCに対し、今回のキャンペーンやポスターに描かれた女性の描写は不愉快だと話した。

「スイスの多くのイスラム教徒は、侮辱されたと感じるはずだ。自分たちは社会の一員ではないと、不当な形で社会の隅に追いやられてしまうと。私たちの外見は、ポスターに描かれ女性とは違う。全く違う」

一方で、ムスリム・コミュニティの中にはこの禁止措置を支持する人もいる。

首都ベルン出身のイマーム(イスラム指導者)、ムスタファ・メメティ氏はBBCに対し、このキャンペーンは「おそらくイスラム嫌悪」が動機だっただろうが、それでもスイスのムスリム女性にとっては自由と権利拡大につながるはずだと考え、禁止措置を支持したと話した。

国民投票に先立ち、国民投票委員会の委員長兼SVP議員のヴァルター・ヴォブマン氏は、ムスリムのフェイスカバーは「欧州でますます目立つようになってきた過激な政治的イスラムの象徴であり、スイスではふさわしくない」と述べた。

「スイスでは自分の顔を見せるのが伝統だ。これは基本的な自由の証だ」

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、「表現の自由や宗教の自由を含む女性の権利を侵害する危険な政策」だとして、禁止案に反対した。

公共の場で女性が顔を覆うイスラム教の慣習は、欧州の他の国でも議論されてきた。2011年にはフランスが顔を完全に覆うフルフェイスのベール着用を禁止したほか、オランダ、デンマーク、オーストリア、ブルガリアでは公共の場でのフェイスカバーの着用が全面的または部分的に禁止されている。


<解説>フェイスカバー禁止に「賛成」でも「反対」でもないスイスの有権者たち――イモーゲン・フォークス記者、BBCニュース(ジュネーブ)

今日の国民投票は、ニカブやブルカだけでなく、暴徒が顔を覆うのに使うスカーフに至るまで、顔を覆うものは全て禁止するという内容だったのだろうか。

SVPが掲げる「イエス(賛成しよう)」キャンペーンはそうだと主張していた。しかし同党が展開するポスターなどでは、黒いニカブ姿の女性が怖い表情をしている。イスラム過激主義を警告する文言も使われている。

つまり、この投票結果はスイス国民の過激化を意味しているのだろうか。スイスの人たちはイスラム教を嫌悪しているのだろうか。

たぶん違う。国民投票の結果は、禁止賛成派が僅差で勝ったに過ぎない。SVPはこれまで、亡命や移民を制限することを目的としたポピュリスト(大衆迎合主義者)的なイニシアチブを打ち出し、過半数を大きく越える支持を得てきた。

2009年にはミナレットの建設禁止をめぐり今回同様のキャンペーンを展開し、成功を収めた。しかし、今回のフェイスカバーをめぐる議論は、様々な形で様々な人をいらっとさせた。たとえばフェミニストの多くはブルカやニカブは女性を抑圧するものだと批判的だが、同時に女性が何を着て何を着てはいけないか法律で規制することにも反対している。

そして投票の際には女性たちの間で意見が分かれた。顔を覆う服装の禁止を支持するかどうか聞かれると、多くの女性は「Ja(はい)」でも「Nein(いいえ)」でもなく、「Jein(どちらでもない)」と答えたのだ。僅差で賛成が上回った今回の投票結果でも、実は「Jein」が多かったに違いない。


(英語記事 Switzerland votes to ban face coverings in public