南海トラフ地震では、12年に公表された内閣府の防災会議にて最大32万人が犠牲になると報告されている。その後より少ない数に修正されたものの、最悪の最悪を想定しておくべきであることは、まさに10年前の教訓である。いずれにしても、恐らく最大でその5倍近くの避難者ないし移住者が発生すると考えられる。

 一度津波被害が発生すれば、住宅に住めなくなったり、低い地形の地域にこれ以上住めば危険であることが認識されるからだ。政府としても、すぐには150万人規模の仮設住宅は作れない。

 そのため私の提言では、あらかじめ被害が少ないであろう内陸地域や都市郊外での空き家や地域住宅の活用を提案している。これによって「空き家問題」と「大災害の支援」両方の対応ができ、一石二鳥だ。災害後の対応の素早さは、災害前の準備次第である。

 また、昨今の自然災害は、複雑かつ複合化している。例えば東日本大震災は、巨大地震によって引き起こされた広域にわたる津波と、それによる原発事故があった。

 地震と津波、原発被害という3つの深刻な災害が起きたが、それに加えて3月の東北には耐え難い寒さと雪もあった。16年4月の熊本地震では、大きな地震の後にとてつもない本震に見舞われた。2度の地震の後者を本震と呼ぶようになったが、当時はみなその地震の揺れと被害に衝撃を受けた。

 なお、私が東海地方の大学に招聘(しょうへい)されて行った授業では、自分たちが住む東海地方に東海地震および津波が発生したという想定で、どう対応すべきかとの課題を与えた。そして進行中に突如、震災2日後に伊勢湾台風並みの台風が接近していると参加者に伝え、救援活動のシナリオをさらに複雑化させた。

 季節にもよるが、地震と津波に加え台風の接近もあり得る。これまでの防災訓練では、そうした複合的視点は盛り込んでいない。だが、現実を考えれば台風のほうが地震より発生機会は多いのだから、地震と津波、台風の複合災害は想定外ではなく想定内と言えるだろう。

 また、現在進行中の新型コロナも救援活動に大きな影響を与えるだろう。ボランティアが集めにくく、避難所の運用も難しくなる。昨年の熊本豪雨では、コロナ禍中での最初の大きな自然災害だったが、マスクやアルコールの手配、ソーシャルディスタンスの確保などで大変だったようだ。
豪雨災害に見舞われた人吉市市街地、右は球磨川=2020年7月、熊本県人吉市(産経新聞ヘリから、彦野公太朗撮影)
豪雨災害に見舞われた人吉市市街地、右は球磨川=2020年7月、熊本県人吉市(産経新聞ヘリから、彦野公太朗撮影)
 以上述べてきたように、日本の防災政策にはまだまだ課題が多い。今後も、次の大震災に備えるために、緊張感を持って取り組まなければ、再び「想定外」という言い訳で責任転嫁に終始するではないかと懸念している。

 東日本大震災から10年を迎え、私自身、犠牲者のことを本当に思うなら、今後犠牲者が出ないように一人ひとりがどう行動しなければならないのか、この「3月11日」が考える機会になればと思っている。