
2021年03月11日 14:51 公開
ラジニ・ヴァイディヤナザン、BBCニュース、インド・ミゾラム州
国軍への抗議デモが続くミャンマーから、国境を越えてインドに逃亡した警官10人以上が、BBCの取材に応じた。これまでにほぼ例のないインタビューで警官らは、一般市民を殺傷する事態を恐れ、国軍の命令を拒否して国外に逃げたと語った。
「デモ参加者を撃てと命令された。それはできないと言った」
そう話したナイン氏(27)は、ミャンマー(ビルマ)で9年間、警官として働いてきた(BBCは安全への配慮から警官らの名前を変えている)。
現在、インド北東部ミゾラム州で身を隠している。
BBCはミャンマーで警官として働き、命令に従わなかった後、職を放棄して逃げたと話す20代の男女の一団に取材した。「軍に抗議している罪のない人たちを殺傷するのを強制されるのが怖かった」と、1人は話した。
「私たちは、選挙で発足した政府を軍が転覆したのは間違いだったと思っている」
国軍が2月1日に権力を奪取して以来、民主制を支持する抗議者ら数千人が、通りに出てデモを続けている。
これまでに50人以上が、治安部隊によって殺されたとされている。
ミャンマー西部の町の下位の警官だったナイン氏の話では、2月末になって抗議デモが激しくなり始めた。
デモ参加者らに発砲するよう命令されたが、2度拒み、逃亡したという。
「上司に、できない、あの人たちを支持すると伝えた」
「軍はいら立っている。どんどん残忍になっている」
取材中、ナイン氏は携帯電話を取り出し、残してきた家族の写真を見せた。妻とまだ5歳と6カ月の娘2人だ。
「もう二度と会えないかもしれないと心配だ」
BBCが警官らの一団と会ったのは、インド・ミゾラム州の丘や谷を見下ろす高地だった。ミャンマーとの国境から16キロと離れていない場所だ。
警官らは自分たちについて、民主制を支持し、市民不服従運動(CDM)に加わっている、増え続ける公務員の一部だと話す。
BBCは警官らの話が事実か、独自に確認することはできなかった。
国連とアメリカなどの国々は、ミャンマーのクーデターに対する抗議デモを弾圧する中で、市民が殺されていると非難。軍などに自制を求めている。一方、国軍は批判を相手にせず、制裁と孤立に耐えると表明している。
ミャンマー当局によると、クーデター発生以降、100人以上がインド・ミゾラム州に逃れているという。
トゥ氏(22)は、国軍が政府を転覆させた夜の記憶を語る。インターネットが切断され、勤務していた警察署の近くに、軍の詰め所が設置されたという。
「数時間後、軍がクーデターを起こしたとわかった」
彼と警察の同僚らは、軍兵士らとペアを組まされ、通りをパトロールした。鍋などをたたいて平和的に民主化運動への支持を表明していた抗議者らに対し、拘束すると言って脅したという。
大都市で勤務していたトゥ氏も、抗議者に向けて発砲するよう指示されたと話す。彼はその要求を拒否したという。
「責任者の軍人は、5人以上のグループで行動している人たちを撃つよう、私たちに命令した。人々は殴打されていた。眠れない夜が続いた」
「罪のない人たちが血を流しているのを見て、そうした行為に加担することはできないと思った」
トゥ氏によると、所属していた警察署で逃亡したのは彼だけだった。オートバイで逃走中、村々を通過してインドとの国境に着くまで、ずっと恐怖心に襲われていたという。
BBCが取材した警官らは、一部で国境となっているティオ川を渡ってインドに入国したと話す。
警官らは、同じルートでインドに入国する警官の数は、近いうちに増えるとみている。
グレイス氏(24)は、BBCが会った女性警官2人のうちの1人だ。
彼女は、国軍が棒やゴム弾を使ってデモ参加者らを取り押さえるのを見たと述べた。子どもが交じった集団に向けて催涙ガス弾を発射したのも見たという。
「軍は私たちに群衆を解散させ、友人たちを拘束させようとしたが、そんなことはできなかった」
「私たちは警察組織を愛している。でも今は制度が変わり、仕事を続けることができない」
グレイス氏は、家族を置いて国を去ることについて苦悩したという。母親が重い心臓病を患っており、特に心配だと話す。
「両親は年老いていて、恐怖も感じている。でも私たち若者には、親を残して逃げること以外の選択肢はない」
ミャンマー当局は「友好関係の維持」のため、逃げた警官らを帰国させるようインド政府に求めている。
一方、インド・ミゾラム州のトップは、インド政府が対応を決定するまで、同州に到着した人を一時的に保護するとしている。
ミャンマーから逃亡したのは警官だけではない。BBCは、民主化運動に参加するようオンラインで呼びかけ、当局から令状が発行されたという商店主に会った。
「身勝手に逃げているわけではない」と彼は言い、なぜ危険を冒して国を去ったかを説明した。
「国内の誰もが不安を感じている」
「私は身の安全のためにここにいる。今後も運動を支援するため、こちら側でできることを続けていく」