初回起動時にブルートゥースの利用を許可していないとアプリが起動しなくなる、利用開始日が変更されてしまう、虚偽の陽性報告ができてしまう恐れがある、といった具合に次々と問題が発見された。虚偽の陽性報告については、見かけ上「陽性登録」されたように見えても実際はされていないと厚労省が説明することになったが、相次ぐ不具合に不信感を抱く声もあった。

 加藤勝信厚労相(当時)から開発を担っていると紹介されていた「Covid-19RadarJapan」の開発チームは、ソーシャルメディア上で批判の矢面に立たされた。廣瀬氏は自身のツイッターで「この件でコミュニティーはメンタル共に破綻した」とツイートし、次のリリースで開発から離れ、委託会社などに託したい考えを示した。関氏は「接触確認アプリの不具合に対して、Covid19Radarチームを責めるのは筋違いだろう」と擁護し、ソースコードを無償公開する「オープンソースソフトウエア」で作られた製品(=アプリ)の責任は委託事業者が持つべきだと主張した。

 その後、COCOAは11月17日までにダウンロード2001万件と利用者を伸ばしていった。検知の精度が低いといった技術的な問題や、陽性登録件数が2020年7月末時点で「92件」にとどまるなど、相変わらず課題も多かった。11月頃にはいくつか良い報告もあった。浜松市、熊本市など複数の自治体で、ユーザーがCOCOAからの通知をきっかけにPCR検査を受診したところ、陽性が判明したという事例が報告され始め、ようやく一定の効果を示すことができたのだ。

 しかし、2021年に入ると深刻な問題が次々と露呈し、信頼の回復が難しい局面にまで追い込まれた。

 問題が指摘され始めたのは2021年2月。Android版のアプリで、陽性者と接触したユーザーへの通知が送られない不具合があったことが判明したのだ。アプリのそもそもの価値をも揺るがす不具合だ。

 2月12日には原因究明にあたった平井卓也デジタル改革担当相が、Android版アプリ開発時に必要な仕様を誤解した状態で使っていたことが原因だったと説明し、「いくらなんでもバグが多すぎる。ここまでのトラブルは普通ありえない」と苦言も呈した。また、「これまで(のシステム開発)はお金を出して終わりだったが、これ(アプリ)は常に関与し続けないといけない。永久に完成しないものに国は今まで付き合ったことがない。今までの国のシステムの発注とは違う種類だった」と振り返った。

 その直後、追い打ちをかけるように、アプリの信頼を揺るがす問題点が見つかる。iPhone版のアプリで時折、状態が初期化されてしまい、2週間以内の接触者を正確に調べることができないことが分かったのだ。Androidでは、1日に1回程度、アプリを再起動しないと正常に利用できない不具合も判明。もはや、信頼は目も当てられない状態にまで落ち込んでおり、COCOAを少しでも擁護しようものなら罵声を浴びそうな空気が漂い始めていた。

 もはや信頼を完全に失った日本の接触確認アプリだが、経済を回す最も有望な技術である事実は変わりなく、問題を放置しておくわけにもいかない。そこで内閣官房IT総合戦略室と厚労省が、事態の収拾のために連携チームを発足した。メンバーには、開発体制の問題点について鋭く指摘してきた楠正憲氏や、関氏が政府CIO補佐官として参加した。
衆院内閣委員会で答弁する平井卓也デジタル改革担当相=2021年2月24日、国会・衆院第16委員室(春名中撮影)
衆院内閣委員会で答弁する平井卓也デジタル改革担当相=2021年2月24日、国会・衆院第16委員室(春名中撮影)
 ネットを見てもCOCOAについては悪い評判しか見かけない。そんなアプリの信頼回復に挑むというのは火中の栗を拾うような行為だ。

 しかし、その誰もやりたがらない職務に立ち上がった2人を応援する声もあった。東京都副知事で元ヤフー社長の宮坂学氏だ。


東京都フェローの関さん楠さんたちのCOCOAの信頼性再構築という難事業への取組。心から応援。二人からはオープンに作ることこそが信頼性をもたらすことなど多く学んだ。


 同日、関氏自身も「銀の弾なんてものはありません。できることを着実にやるしかない。みなさんご協力いただけましたら幸いです。> オープンプロセスによって、COCOAの信頼を再構築する」とツイート。同時に「オープンプロセスによって、COCOAの信頼を再構築する」と題した記事を公開し、事態収拾チームとしてやるべきことなどの考えを発信している。

接触確認アプリを社会全体で活用していくためには、適時的確でわかりやすい広報、インストール後のコミュニケーションや接触通知後のユーザーエクスペリエンス(利用体験)の改善・向上など、やるべきことはたくさんあります。

他国での状況を調べて参考にする必要もありますし、あるいは、ここで一度立ち止まって、そもそもあるべき姿について皆で再度考える必要もあるかもしれません。


 これまでのCOCOAは「大失敗だった」と言っていいだろう。だが、「失敗は成功のもと」という言葉もある。アップルとグーグルが作った国際的な規格を採用していることを考えると、将来、このアプリが国際的な人の行き来を本格的に再開させる上でも重要なカギを握る可能性もある。

 日本では、早い段階で手痛く、大きな失敗をしたおかげで信頼と実績を持つ監督チームを得ることができた。政府主導の開発の何が問題点であるかもたっぷり議論が行われたので、おそらく同じ失敗を繰り返すことはないはずだ。そう考えると、この失敗は必ずしも無益ではなかったようにも思える。

 COCOAの失敗は、何も開発体制だけの失敗ではない。開発者を精神的に追い込んでしまった国民やメディアにも失敗があったと思っている。この点についても過去の失敗から真摯(しんし)に学び、今度は一緒に育てるようなつもりで接触確認アプリの再出発を温かく見守ってもらえたら、政府が進めるデジタル化の流れにも良い影響があるのではないだろうか。