
2021年03月24日 12:29 公開
リオ・ケリオン、テクノロジー担当編集長
自動車業界にとって最大規模の半導体メーカーである、日本のルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス)の工場で先週、大規模な火災が発生した。半導体不足が問題となっている中での出来事だけに、業界への長期的な影響が危ぶまれている。
ルネサスは、注文処理の能力に「大きな影響」が及ぶ恐れがあるとしている。
一方、独フォルクスワーゲンは、半導体不足は秋まで続く可能性があるとしている。
フォルクスワーゲン北米法人のスコット・キーオ最高経営責任者(CEO)は、「状況は秋までには落ち着くだろうが、複雑な事態となるのは間違いない。試練となるが、私たちは乗り切れると思う」とBBCに語った。
また、一部の工場で日々のシフトを減らす見込みだとしたが、閉鎖は回避したいと述べた。
クリーンルーム
ルネサスによると、火災は今月19日に那珂工場(茨城県ひたちなか市)で発生。「過電流」によってめっき槽で出火したという。過電流の原因は調査中。消火活動は鎮火まで5時間以上かかった。
那珂工場は、直径300ミリメートルの半導体ウエハーを製造する、同社で最も先進的な施設だった。
同社によると、火災による人的被害はなかったが、11の製造装置が焼損したという。
火災が発生したのは、ほこりなどの微細な物質がトランジスターや回路など半導体の細かな部品を壊すのを防ぐため、室内の環境を管理した「クリーンルーム」だった。そのため、損壊した部分を取り換えればすぐ、生産を再開できるわけではない。
ルネサスは、被害を受けた設備で製造していた製品の大半は、理論的には別の場所でも製造できるとしている。しかし、供給不足が広がっている中での実現は難しそうだ。
ルネサスは、1カ月以内に生産を再開したいと表明している。しかし、ニュースサイトの日経アジアは、生産量が通常に戻るまで3カ月かかる可能性があると報じた。
寒波と干ばつ
ルネサスは、半導体の在庫は約1カ月分あり、自動車メーカーからの注文には応じ続けることができると説明。自動車製造への影響はすぐにはないとしている。
だが、今回の出来事は危機のただ中で起きた。
新車の多くは、いくつものマイクロプロセッサーを必要とする。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まったころ、自動車メーカーは売り上げが落ち込んだことから、部品の発注を減らした。
2020年終わりにかけて売り上げが戻ったが、部品の入手は困難になっていた。ロックダウンで需要が膨らんだ家電メーカーなどが、注文を増やしていたからだった。
加えて、今年2月に米テキサス州を寒波が遅い、現地の半導体工場が閉鎖に追い込まれたことも影響した。
アメリカは中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)および半導体大手・中芯国際集成電路製造(SMIC)などとの貿易を規制。中国企業が多くの在庫を持つようになった。
さらに、台湾が干ばつに見舞われたことも、現地の生産に影響した。半導体ウエハーの製造には大量の水が必要なためだ。
在庫が減少
多くの自動車メーカーが、工場での生産を遅らせたり、一時的に中断したりしている。当初の予想では、業界として600億ドル(約6兆5200億円)以上の売り上げ減になるとされた。
「自動車用の半導体の生産量が現在、非常に限られていることを考えると、今回の火事は、いわば泣き面に蜂だ」と、調査会社ラジオ・フリー・モバイルのオーナー、リチャード・ウィンザー氏は話した。
「ただトヨタは、2011年の福島原発事故を受けてすべての納入業者に、以前より在庫を増やすよう指示していた。そのため、ホンダや日産ほど大きな影響を受けないことは十分あり得る」
メモリーチップ
半導体の生産に支障が出たことによる影響は、広がりをみせている。
日経アジアは21日、メモリーチップの値段は今年の初めから60%上昇したと報じた。古いメモリーチップが特に供給不足で、それを必要とするプリンターメーカーなどに影響が及ぶとしている。
韓国サムスン電子の高東真(コ・ドンジン)共同CEOは先週、「世界的にIT部門で、チップの需要と供給に深刻な不均衡」が生じていると警告を発した。
サムスン電子は、自社製品や他社向けに最先端チップをデザインし製造している珍しい企業だが、それでもなお、別会社の供給に頼っている。また、アプリケーションプロセッサーは、米クアルコムからの供給不足に直面している。
クアルコムのスティーヴ・モレンコフCEOは20日、中国・北京で開かれた中国開発フォーラムで、この問題について間接的にコメントした。
モレンコフ氏は、古いテクノロジーを使ったチップは、新しいものより早く供給が回復するだろうと予測。「製品によっては、状況を改善できるだろう」と話した。