2021年04月02日 11:29 公開

昨年5月に米ミネアポリスでジョージ・フロイドさん(当時46)の首を膝で9分以上押さえつけて死亡させたと殺人罪で起訴された元警官の公判で1日、救急隊員2人が自分たちが現場に到着した時点でフロイドさんには脈がなかったと証言した。

殺人と故殺の罪で起訴されている元警官デレク・チョーヴィン被告(45)は、罪状を否認している。ミネアポリス市内にあるミネソタ州ヘネピン郡地裁での裁判は、3月末から実質審理が始まった。

セス・ブラヴィンダー救急隊員は、出動要請を受けた当初は、人命に関わる事案ではない印象だったが、現場に到着した時点でそうではないと分かったと法廷で証言した。

自分たちが現場に着いた時は警官たちが誰かともみあっているのかと思ったものの、フロイドさんがぐったりしているのにすぐ気づいたという。容体を判断するため、チョーヴィン被告にフロイド氏から離れるように言う必要があったと、ブラヴィンダー隊員は述べた。

チョーヴィン被告に向かって手を動かして何か話しかけている現場映像について質問されると、ブラヴィンダーさんは「患者を動かせるよう」、警官に「動いてもらいたかった」のだと説明した。

ペアを組んでいるデレック・スミス救急隊員はフロイドさんの首に指を当てて脈を確認しようとしたものの、感じられなかったとして、「一般的な意味では、すでに死亡していると思った」と証言した。

「自分が現場に着いた時点で、患者に対する医療行為は行われていなかった」とも、スミスさんは述べた。

ブラヴィンダーさんは、フロイドさんの頭部が路面を打たないように抱えながら、その体を担架に移し、救急車に収容して胸骨圧迫を開始したと話した。

フロイドさんの心臓から電気反応が見えたと思ったため、蘇生のため電気ショックを与える処置もしたという。「彼はひとりの人間で、自分は生きるチャンスを与えようとした」のだとスミス隊員は述べた。

ブラヴィンダー隊員は、病院へ向かう途中にフロイド氏の心電図波形がフラットライン(一直線)になり、心停止となったことや、スミス隊員による処置を手伝うために救急車を停車させたことなどを話した。フロイドさんを蘇生させようと手を尽くしたものの、回復しなかったという。

フロイドさんの恋人も証言

この日の公判では、フロイドさんの恋人コートニー・ロスさんも証言した。フロイドさんを直接知っていた人が証言するのは初めて。

ロスさんは、自分たちが知り合ったのは2017年で、救世軍のホームレス避難施設で警備員として働いていたフロイドさんと、施設のロビーで出会ったのだと話した。息子の父親に面会しようとロビーで待っていたロスさんに、フロイドさんは自分のために祈ってくれないかと頼んだという。

「とても素敵で、当時の自分は神様を信じる気持ちをかなり失っていた」とロスさんは述べ、その晩に自分たちは初めて口付けをしたのだと話した。

自分たちのこのなれそめが「とても好きだ」と話したロスさんはその上で、2人とも慢性的な疼痛(とうつう)に悩まされており、麻薬鎮痛剤オピオイドを含む薬への依存症にかかっていたと話した。

「依存症というのは、一生の戦いだと私は思う。すっかり消えてなくなることはないし、自分が永遠に抱えることだと思う」とロスさんは述べたが、事件当時のフロイドさんがオピオイド系の薬を使っていたどうかには触れなかった。

フロイドさんの遺族を代理を務める弁護士たちは、元警官の弁護士たちが「ジョージ・フロイドの死因は鎮痛剤フェンタニルを摂取していたからだという筋書きを構築しようとしている」と非難した。

「ジョージが死ぬ様子をビデオで見た全世界の人たちに、あらためて指摘したい。デレック・チョーヴィンが膝でジョージの首を押さえつけ、呼吸できないようにして、命を消し去るまで、ジョージは歩いてしゃべって笑って、しっかり息をしていたことを、思い出してもらいたい」と、フロイドさん遺族の代理人たちは述べた。

無罪を主張するチョーヴィン被告の弁護団は、フロイドさんの死因は薬物の過剰摂取と体調不良で、警官たちが拘束のため使用した威力の程度は合理的なものだったと弁護を展開する方針を示している。

この日の審理ではほかに、事件当日の監督責任者だったデイヴィッド・プレーガー警官が証言。当日の夜になって初めて、チョーヴィン被告がフロイドさんの首を膝で押さえつけていたことを知ったと述べた。プレーガー警官は、「事態を掌握し」容疑者に手錠をかけ終えたら、ただちに膝による圧迫をやめるべきだと通常の逮捕術について説明。「人がずっとうつぶせになっていると、呼吸が妨げられる」ため、姿勢を変えさせるのが望ましいと述べた。

なぜこの事件が重要なのか

助けてくれと懇願するアフリカ系男性の首を、白人警官が膝で長時間押さえつけ、やがて男性がぐったりする様子を写した映像は、世界中で激しい怒りを巻き起こし、アメリカ全土のほか世界各地で人種差別や警察暴力に抗議するデモが相次いだ。

フロイドさんの死の前からアメリカでは、アフリカ系市民が警官によって死亡する事件が相次いでいた。

バラク・オバマ元大統領は、一連のデモは「警察慣行や司法制度全般を改善しようと何十年も続いた取り組みが失敗し続けてきたことへの、もっともないらだち」の表れだと話していた。

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アメリカでは、警官に撃たれて死亡する被害者のうちアフリカ系市民の割合が突出して多く、薬物事件で逮捕されるアフリカ系市民の割合も同様に多い。また白人市民に比べて実刑判決を受ける確率は5倍に達する。

一方で、容疑者が逮捕時に死亡しても警官が起訴される割合は少なく、ましてや有罪判決が出ることは珍しい。それだけに、今回のこの裁判はアメリカの刑事司法制度がこのような事案を今後どう扱うかの重要判例になると、注目されている。

(英語記事 Derek Chauvin trial: Paramedics say Floyd had no pulse when they arrived