日本は保護国という大前提は今も続いている


義家 この機会にぜひ渡部先生にお聞きしたいことがあります。カーター政権の大統領補佐官で、オバマ政権でも外交顧問をしているブレジンスキー氏が『グランドチェスボード』で日本について「日本は米国のセキュリティー・プロテクトレート」と評していますね。

渡部 保護国だと言っています。

義家 「安全保障上の保護国」と今でも言っている。つまり日本では誰もが独立国だと思っているがそうではない。こと安全保障に関しては現オバマ政権の外交顧問でさえ、セキュリティー・プロテクトレートと評して憚らない。これをどう見たら良いのか。
来日中、アジア政策演説に臨むバラク・オバマ米大統領=2009年11月14日午前10時20分、東京・赤坂のサントリーホール(代表撮影)
 私たち日本人はまず、本当にそういうことでいいのかとしっかり国民に問い、考えることが大切だと思う。集団的自衛権の議論だって然り。戦後六十数年、あたかも自分たちの手で平和国家をつくりあげたかのような錯覚を抱いているが、米国から見れば「ただのセキュリティー上の保護国」。こんな位置づけに甘んじて、次の世代に日本という国家を引き継いで行くことがいいはずがない。現代を生きる大人の責任を感じますね。

渡部 平和運動家たちは、自分たちの運動のお陰で平和が保たれているなんて思っているが、ソ連が北海道に手を出さなかったのは、紛れもなく米国軍がいたからです。それ以外に理由はありません。

義家 まともな感覚を持っていれば、そんな汚名は着たくない、自主独立国家になるというのが自然な発想ですがそうはならない。昨年の安倍首相の靖国参拝の時に、米国が「失望した」と表明したことがありました。私は言いようのない違和感を感じたんです。御霊をどう祀るか。これは国内の問題であり、内政の問題です。しかし一方で、改めてこうした発言などに出会うと、「ああ、なるほど。彼らは日本をそう思っているのか」と考えると合点がいくところがあるのです。保護国に対する感覚とはそういうものでしょう。ですがそういう感覚を米国が抱いているということは日本人はしっかりと認識しておかなければならない。仮の話ですが現実に中国が尖閣に突入してきた場合、どうするか。日本が全く動かないなら恐らく米国は動かないですよ。安全保障上の保護国に甘んじて、本当にこれからの激動の世界で平和を保てるのか。現実を直視する必要があると思いますね。

渡部 米国は日本を今も保護国と見ている。これは義家先生がいまおっしゃった通りでしょう。安倍首相の靖国神社参拝に失望を表明した問題についていえば、米国には「靖国神社問題は内政の問題ではなく、これは宗教の問題だ」と日本は言うべきだったと思います。そうすれば米国は口は出さないはずなんです。宗教問題は1648年のウェストファリア条約以来、絶対お互いに口を出さないことにしているでしょう。三十年戦争の反省に基づいて、宗教と国家は切り離した。ですから、ブッシュ大統領はどんなにイラクに攻め込もうとも絶対にイスラム教の批判はしないし、9・11という未曽有のテロが起きても、イスラム教への批判はなかったはずですよ。日本の靖国神社になぜ、米国は口を出すのですかと言えば、はたと気づくはずなんです。

 問題は「これは宗教問題である」と米国に伝える外交官が日本にいないことではないでしょうか。外交官が「何をバカなことを言うのですか。バカなこと言わないでくださいよ。あれは宗教問題ですよ」と米国を諭す。米国だって先進国ですから、こう言われればわかる人がいるし、わかるはずなんです。

学校教科書記述のお粗末


義家 事実に基づいた議論が本当に大切だと思いますね。この六十数年間、渡部先生のように一貫して背骨のある主張を展開された先生はいらっしゃるけれども、国民全般としては、学校教育が嘘を教えてきたこともあってまっとうな議論が行われないまま70年近くが過ぎている。こう言わざるを得ません。

 せっかくの機会ですので今の教科書でどうポツダム宣言や無条件降伏を扱っているか、紹介したいと思います。渡部先生が仰ったようにポツダム宣言の文章自体が教科書にはないのです。「われらの条件は左のごとし」とあったことは教えられない。そして一番採択率の高い東京書籍では、「一九四五年七月、連合軍はポツダム宣言を発表し、日本に無条件降伏を求めました。そして、日本は宣言を受け入れて降伏しました」と書いてある。清水書院も「一九四五年七月、米国、英国、中国は日本に無条件降伏をよびかけるポツダム宣言を発表した…」とある。帝国書院は「日本の無条件降伏をうながす共同宣言を出しました(ポツダム宣言)」とあって、無条件降伏したとも条件降伏したともどちらにも読める記述です。

渡部 教科書というのは怖いんです。数学の教科書や物理の教科書に嘘は書いていない。ところが社会科とか歴史の教科書は嘘だらけだから怖い。時間とともに私たちの頭を縛っていきますからね。

 でもこうした構造はメディアも同じことです。私は敗戦利得者構造と名付けていますが、占領が7年間続くと、もうそこで本当に利権の構造が確立してしまう。朝日新聞も初めのうちは違っていた。ところが、それが上が替わってしまって左翼に占められてしまうわけです。言論界も同じだし、教育界も公職追放令で堅いことを言っていた人はいなくなった。

義家 芦田均内閣ぐらいで、マスコミの報道姿勢は完璧に確立したような気がします。

渡部 敗戦利得者による利権構造、別の言葉で言えば、これが戦後レジームかもしれないですな。

戦後レジームとは敗戦利得者構造だ


渡部 それから、私は戦勝国の枠組みをまた作り直そうとしている動きがあるように思えてなりません。冷戦終結後、それは顕著になっている気がします。ですから、日本の外務省は、さきほどのマッカーサー証言を米国の国務省に教えてやらなきゃいけないと思う。ところが日本の外交官がそのことを知らないんです。マッカーサー証言すら知らないんですよ。この証言は「敗戦国」対「戦勝国」という枠組みを基本から崩すものですからね。

義家 その問題の根っこには教育があると思う。対米依存意識が染みついているでしょう。米国の言うとおりやっていれば大過なくやれる。そういう判断基準に慣れきってしまっている。これも戦後レジームの弊害の一つだと思う。

渡部 米国に頼り切る生き方だってあると思いますよ。でもそれは奴隷の平和なんです。日本も独立すれば、ひょっとしたら徴兵制に近い訓練が必要かもしれない。これは日本人にとって苦痛です。米国の下なら一見安全に思えるかもしれない。しかし、そうなると、今度は米国が日本の男を徴兵しますよ。だから、苦しくても日本は日本人として努力しなければいけないんです。

義家 まさにこれはポツダム宣言とイコールの話ですね。奴隷的平和を甘受するか否かという話は。

渡部 先生は別として日本の政治家の発言を見ていると、ポツダム宣言とサンフランシスコ条約を無視する傾向がある。サンフランシスコ条約のことを言い出す政治家はまずいませんし、サンフランシスコ条約は日本について立派なことを言っています。敢えて言えば11条だけ少し問題はあるが、同じ11条の後半でそれは訂正可能だとも言っている。ところが、小和田恒氏(元外務事務次官)などのようにサンフランシスコ条約でパアになったはずの東京裁判を敢えて持ち出して、国会で「極東軍事裁判の評価については学問的にはいろいろな意見がございますけれども、国と国との関係におきましては日本国政府といたしましては極東軍事裁判を受諾している」(昭和60年11月8日、衆議院外務委員会)などと答弁してしまう外交官すら出てくるわけですよ。裁判を受諾するのと判決を受諾するのは天と地ほどの差があるのに、何もわかっていない。

義家 そもそもマッカーサー氏の外交顧問のW・J・シーボルト氏がこう言っているわけですよ。「私は裁判をやったこと自体が誤りだったと感じた。被告たちの行動が善悪という観念から見ていかに嫌悪を感じさせ、また非難すべきものであったとしても、当時は国際法上犯罪でなかった行為のために、勝者が敗者を裁くというような考えには賛成できなかった」。マッカーサー氏の外交顧問でさえ言っていることで、東京裁判がいかにおかしなことかをしっかりと世界に向けて発信すべきですが、日本が悪かったのだからと自虐的に考えてしまう。そしてあの戦争は全く意味のない無駄なもので命を捧げた人達は犬死にだったとさえ漠然と考えてしまう日本人が多い。私は戦後レジームとは曖昧さと自虐さだと思いますね。

渡部 私が望みたいのは、安倍政権が長期政権になること。その間に啓蒙活動が広がって、本当の姿を記した教科書ができること。そうすれば次の世代は良くなると思う。いまの自民党の方々は、河野洋平氏をまだ呼びつけることすらできない。自分たちの仲間や自分たちの利益の方が国民の利益より重いと考えているのではないか。私も最初の頃は河野洋平氏は馴れ合いの外交に乗せられたと思って同情していた。ところが去年あたりから、河野氏は自己弁護を始めました。これは許せない。自己弁護が成功したらどういうことになるか。全く考えていないとしか思えない。自己弁護が成功したら、日本人は20万人の朝鮮人の若い女性を拉致して、性奴隷にしたと未来永劫、日本人が汚名を着せられ続ける話でしょう。仲間意識で庇うような話では到底あり得ない。そういうことも考えて、私は安倍内閣が長期政権になってほしい。今はまだ、情けないほど妥協しているが、これは直ちに変わる話ではありませんので、気の長い希望として持っています。

わたなべ・しょういち 昭和5(1930)年、山形県生まれ。上智大学卒業。同大学大学院西洋文化研究科修了。独ミュンスター大学、英オックスフォード大学に留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c. 著書に言語学・英語学の専門書のほか『国民の教育』『先知先哲に学ぶ人間学』『国家とエネルギーと戦争』など多数。昭和60年第1回正論大賞受賞。
よしいえ・ひろゆき 昭和46(1971)年、長野市生まれ。明治学院大学法学部卒。ヤンキー先生の名で知られる。平成15年横浜市教育委員会教育委員に、安倍内閣の教育再生会議では再生会議室長となった。20年の参院選に出馬し初当選。24年12月の衆議選では神奈川16区で当選し、文部科学大臣政務官を務めた。