反日パフォーマンスを支える従北自虐史観

 しかし、国交正常化50年を迎えても、反日パフォーマンスが支持率上昇につながるという韓国社会の状況は、自然にできあがったものではない。70年代末以降、北朝鮮とそれにつながる韓国内左翼勢力が作り出した反日自虐史観が韓国社会を強く束縛していることが、その根本に存在する。これが私の考える3つめの日韓関係悪化要因である。そして、この呪縛から韓国社会が抜け出せなければ、今後の日韓関係はより一層悪化し、韓国が自由主義陣営から抜けて、具体的には韓米同盟を破棄し、中国共産党の影響下に入るか、北朝鮮テロ政権主導の統一が実現するという悪夢の可能性さえ存在すると私は危機感を持っている。

 韓国社会をここまで反日に縛り付けた契機は、1979年に出版された『解放前後史の認識1』という1冊の本だった。それまで韓国の学生運動や反体制運動には容共反米は存在しなかった。反日の半分は、日本の容共的姿勢を糾弾するものだった。ところが、朴正熙大統領が暗殺された年に出たこの本は、その枠組みを大きく揺り動かす歴史認識を若者らに植え付けた。

 巻頭論文を書いたのが宋建鎬だ。彼は長く新聞記者として朴正熙政権を激しく批判してきた反政府活動家で、1980年全斗煥政権下、金大中氏らとともに逮捕された。彼は反日を入り口にして、大韓民国は生まれたときから汚れた国で、北朝鮮こそ民族史の正当性の継承者だという当時の学生らに歴史観のコペルニクス的転換を求める「解放の民族史的認識」と題する論文を書いた。その結論部分を訳しておく。

《この論文は、8・15が与えられた他律的産物だったという点から、我が民族の運命が強大国によってどれくらい一方的に料理され、酷使され、侮辱され、そのような隙を利用して親日派事大主義者らが権勢を得て愛国者を踏みつけて、一身の栄達のため分断の永久化を画策し、民族の悲劇を加重させたかを糾明しようとするものだ。過去もまた今も自主的であり得ない民族は必ず、事大主義者らの権勢がもたらされ民族倫理と民族良心を堕落させ、民族の内紛を激化させ、貧富の格差を拡大させて腐敗と独裁をほしいままにし、民衆を苦難の淵に追い込むことになる。民族の真の自主性は広範な民衆が主体として歴史に参与するときだけに実現し、まさにこのような与件下でだけ民主主義は花開くのだ。

 このような観点からすでに半世紀が過ぎた8・15が一体どのように民族の正道から逸脱して行って、それによって民衆がどの様な受難を受けるようになったのかを冷静に糾明しなければならない必要性が生まれるのだ。このような糾明はけっして過ぎた歴史の糾明でなく明日のための生きた教訓になるのだ。8・15の再照明はこのような点で今日のための研究だといわなければならない》

 論文の中で宋は、韓国の建国の父である李承晩を徹底的に攻撃している。李承晩は手段方法を選ばない権力主義者で、米国をバックに日本の植民地統治に協力した親日派を取り込んで分断の固定化に繋がる韓国単独政府を樹立し、親日派処分を妨害し、土地改革を遅延させ、日本統治時代に利益を得ていた地主勢力と結託した――。

 宋らが提唱した自虐史観の中心にあるのが、実は「親日派」問題だ。ここでいう親日派とは、単純に日本に親近感を持っているという意味ではなく、日本の統治に協力して民族の独立を阻害した勢力という意味だ。「解放前後史の認識」は80年代に韓国学生街で大ベストセラーになった。79年から10年がかりで刊行された6巻のシリーズで合計100万部売れたという。盧武鉉大統領も弁護士時代に同書を手にして雷に打たれたような衝撃を受けたという。その歴史観を李榮薫ソウル大教授は以下のように要約している。

「日本の植民地時代に民族の解放のために犠牲になった独立運動家たちが建国の主体になることができず、あろうことか、日本と結託して私腹を肥やした親日勢力がアメリカと結託し国をたてたせいで、民族の正気がかすんだのだ。民族の分断も親日勢力のせいだ。解放後、行き場のない親日勢力がアメリカにすり寄り、民族の分断を煽った」(『大韓民国の物語』文藝春秋)

 この歴史観に立つから、金日成が民族の英雄となり朴槿恵大統領の父親、朴正熙大統領は日本軍人出身だとして「親日勢力」の代表として非難されるのだ。そしてこの歴史観は、日本国内の左翼反日自虐観と呼応していることは言うまでもない。

 そして恐ろしいことに、この歴史観は北朝鮮が一貫して維持してきた対南革命戦略と見事に一致している。北朝鮮は韓国を植民地半封建社会と規定し、まず米国帝国主義とそれに寄生する親日派勢力を打倒し、地主を追い出して農民を解放し、その後、社会主義革命を行うという2段階革命論をとってきた。宋らが6巻のシリーズで主張した韓国社会認識はまさにこの土台の上に立っている。北朝鮮の工作がそこに入っていないとみるのはあまりにナイーブな考え方だろう。

 この歴史観は90年代以降、各界各層に浸透し、現在使われている韓国の小、中、高校で使われている歴史教科書もこの歴史観にもとづき書かれている。2005年以降、一部の実証主義学者らが教科書改善運動を開始したが、彼らが執筆した歴史教科書は今も、採択率ゼロだ。

 朴槿恵大統領はまさに親日派の娘という批判を一番恐れている。その政治的資産は選挙に強いことだった。父親に対する絶対的支持層が彼女の基礎票となり、その上に若者らの票をいかに積み上げるかがこれまでの政治活動の根底にあった。だから、朴槿恵大統領は反日自虐史観に正面から対決せず、それと迎合し続けている。慰安婦問題は自虐史観派にとって格好の材料となっている。朴槿恵大統領が慰安婦問題に取り組まないと、慰安婦問題を抜きに日韓国交を正常化させた親日派の朴正煕の悪業を隠蔽しているという理屈が成り立つからだ。もちろん、当時を生きていた誰もが慰安婦の強制連行などなかったことを知っており、だから韓国は日韓国交交渉で一度も慰安婦問題を持ち出さなかったのだ。

 自虐史観派から激しく非難されている李承晩大統領は「悪質的な独立運動妨害者以外に親日派はありえない」「倭政の時にいくら警察官だった人でも建国事業に参加して大きい功績をたてればその人はすでに親日派ではない。著しい親日経歴がない人でも日本語をしばしば口にして日本食が好きで日本にしばしば行き来し、日本が再進出してくることを待つ人ならば彼らこそ清算される親日派だ」と繰り返し明言しつつ、日本時代に教育を受け実務経験を積んだ官僚、軍人、警察官らを建国過程で使い続けた。それが大韓民国建国に役立つと信じたからだ。この李承晩の信念を李栄薫教授は「建国のための未来指向的な精神革命としての親日清算」と呼んだ。

 朴槿恵大統領がその立場に立てば、北朝鮮の世襲テロ政権を共通の敵として歴史観や領土問題等をお互いに譲歩し合う、50年前朴正熙大統領が築いた日韓友好関係に戻ることは十分可能だ。すでに韓国内の自由統一を目標としている趙甲済氏ら健全な保守勢力はそのような立場から日韓関係の改善を提起している。

 50年前もそして今も、釜山に赤旗が立つことは日本の安全保障にとって最悪のシナリオだ。韓国が反日自虐史観を清算して自由統一を迎えるのか、あるいは、自虐史観に飲み込まれ北朝鮮の思うつぼにはまっていくのか、まだ勝負はついていない。