では今回の法改正で何が可能になるのでしょうか?


 重要影響事態になった時点で自衛隊は必要があれば米軍以外の外国軍隊等への後方支援ができます。活動範囲も我が国の領域等に限っていないので、民間人を輸送する他国軍の艦艇に公海上で補給等の支援が可能です。また、自衛隊は米軍等の部隊の武器等防護もできます。

 実は今までは米軍のイージス艦―もちろん、ミサイルの警戒に当たっています―に海上自衛隊が給油するさい、一々ミサイル警戒を解き、日本の領海へ戻ってきてもらわなければできませんでした。それが公海でもできるようになったのです。
 さらに事態が進んで存立危機事態―武力攻撃が発生し、それが我が国にも非常に影響が出る場合―に至るとどうなるか。もはやこの段階になると、在韓米軍が攻撃されたり、民間人や邦人等の輸送も軍用機や軍艦でなければ難しいでしょう。取り残された邦人を運んでくれている米艦艇を防護しなければなりません。新三要件に該当すれば武力が行使できるようになることはさきほど述べたとおりです。このような朝鮮半島などの近隣有事について「集団的自衛権の行使は必要ない」「周辺事態法に基づき日本の領海内での補給支援だけでいい」あるいは「警察権に基づく権限で米艦防護をやればいい」といった意見も耳にします。

 しかし、これらの法整備は日本人の命を守るための措置です。現実問題としてミサイルが発射された場合、日本人の命が守れない場合がある。そういう危機感が我々にはあります。だからこそ、今回この法整備で態勢を盤石にし抑止力につなげたいと考えています。弾道ミサイル防衛も、アメリカの衛星システムなどを駆使して対処しています。相手は武力を使ってくるのです。

 それに警察権で対応する、これはまさにミサイルにピストルで立ち向かう極めて非現実的な危険な議論だと思います。憲法違反のおそれすらある現場の自衛隊員に十分な権限を与えず、不法な武力攻撃に身をさらす。これは隊員の生命を不必要なリスクにさらしますし、なおかつ日本を守り、日本人の命を守るよう彼らに課すことがどれほど酷な話かを考えてほしい。

 現場の自衛官は常にそうした法律上の制約に悩まされています。サマワでの話をもうひとつしましょう。宿営地をつくるためにコンテナがたくさん届いていました。どうやって運ぶか。インドやバングラデシュのコンボイで運ぶのだが、民間の車両ですから我々が警護しなければ、危険で運べないわけです。

 しかし、私たちの任務に警護は書いてありません。といって目の前のコンテナを運ばなければ宿営地などいつまで経ってもできない。

 サマワに宿営地をつくる第一歩から大いに悩まされました。それで「コンボイが道を迷わないように私たちが水先案内人を引き受けます」としたのです。先頭と最後尾に自衛隊の装甲車がつき、その間にコンボイが入る車列を組んで宿営地まで運んだのです。外形的には誰が見ても完全武装の「警護」でしたが、最後の最後まで私たちは「いいえ。私たちは道案内しているだけです」で通しました。

 東ティモールで暴動が起こったときも邦人の調理人が助けを求めてきました。助けなければいけないが「駆けつけ警護」の任務は私たちに当時、与えられていませんでした。何とかしたいが、一歩間違うと法律違反に問われるなかで私たちはどう対処したか。

 休暇を取った隊員を迎えにいくふりをして出かけたのでした。そこでたまたま調理人のSOSを聞きつけ助けたのだ。だから駆けつけ警護ではないのだ。こういう理屈で何とか任務への違反がないようにしました。カンボジアの選挙監視のさいも投票所が襲撃される恐れがありました。民間ボランティアが多数活動していましたが、不測の事態から彼らを守らなければならない。そこで我々はどうしたか。情報収集という名の下に投票所に自衛官がついたのです。そういう経験を現場は沢山味わっています。そのたびに知恵を絞ってスレスレでしのいでいるのです。

 自衛隊が繰り出す現場ではいろんなことが起こります。リスクを下げるといっても自衛官の任務はそもそもどんな任務でもリスクを伴うものです。リスクから逃げたがる心構えでは自衛官として困ります。ですが、国会議員が実のある議論を怠って間尺にあわない法律が現場を無用の混乱に陥れたり、無理を強いるのは困ります。隊員を不必要な危険に晒すような法律は許されないのです。

さとう・まさひさ 昭和35(1960)年、福島県生まれ。防衛大学校卒業(27期)。国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、イラク復興業務支援隊初代隊長、第7普通科連隊長兼福知山駐屯地司令などを歴任。平成19年に退官(退官時は1等陸佐)、参議院議員初当選、自民党「影の内閣」防衛副大臣。著書に『ヒゲの隊長のリーダー論』(並木書房)など。