東シナが中国の海に!?


 中国によるガス田開発のもうひとつの深刻な問題が、軍事的側面である。中国が2013年11月、尖閣諸島上空を含む東シナ海で一方的に防空識別圏(ADIZ)を設定し、国際社会の批判を浴びたことは記憶に新しい。ただ、大陸にある彼らのレーダー基地からは日中中間線あたりまでしか監視できず、彼らの防空識別圏は実際には機能してこなかった。

 だが、中間線付近のガス田の海洋プラットホームを軍事利用すれば、防空識別圏の航空管制が現実に可能になる。さらには沖縄本島も含め南西諸島すべてが中国の監視下に置かれ、沖縄や東シナ海の米軍、自衛隊の動きが丸裸にされる。

 ヘリポートは、軍用ヘリのみならず無人機(ドローン)の基地にもなる。参議院議員の佐藤正久氏は、固定式の対空ミサイルを据え付けることも可能だという。その場合、自衛隊と米軍の空からの哨戒も容易でなくなる。海底にソナーを置いて海中の動きを監視することもできるのであり、林立する海洋プラットホームは、中国が軍事利用を公言する南シナ海の人工島と同様、東シナ海全体を中国の海にするための拠点になりかねない。

 私の疑問は、我が国にとって、これほど重大な脅威となりうる中国の海洋開発を知りながら、なぜ政府が情報をひた隠しにしてきたかという点である。

 中国が急速にわが国の眼前で一方的に開発を進めてきた事実は、海上自衛隊の哨戒活動で日本は逐一把握している。

 海自の情報は防衛省、外務省、経済産業省に上げられ、さらに国家安全保障会議(NSC)に報告される。このプロセスの中で東シナ海の情報は公開しないことが決定されたと情報筋は語る。複数の情報筋は非公開を決めた主体は外務省だと指摘する。
南シナ海のスービ礁で中国が進めている埋め立て作業。礁の右側の砂で埋め立てられている部分は、周囲に停泊している船の大きさなどから、滑走路が建設可能な規模で造成されていることが確認できる。撮影は7月12日(フィリピン軍提供・共同)
南シナ海のスービ礁で中国が進めている埋め立て作業。礁の右側の砂で埋め立てられている部分は、周囲に停泊している船の大きさなどから、滑走路が建設可能な規模で造成されていることが確認できる。撮影は7月12日(フィリピン軍提供・共同)
 外務省の対中融和外交の影響だとすれば、それは、国際法を順守し、力による現状変更には断固反対するという安倍晋三首相の対中外交の基本とは相容れないはずだ。もうひとつの見方は、外務省は防衛省から上がってくる情報に余り重きを置かず、十分にその意味を理解できなかったというものだ。有り体にいえば、東シナ海のことまで考えが及ばなかった、というのである。

 いずれにしても、これが外務省の実態であれば、日本の外交を担う資格があるのかと、問わねばならない。

 南シナ海では、CNNの映像が全世界に発信されたことで国際社会の批判が強まり、中国は「埋め立て完了」と言わざるをえなくなった。日本も、同様の蛮行が東シナ海でも行われていることを、まず日本国民に、そして世界に知らせるべきである。中国の力に物を言わせる蛮行は、現在国会で行われている新たな安保法制の審議と密接に関係する。

 安倍政権が集団的自衛権の行使を限定的ながら可能にしようとしている背景には、北朝鮮のミサイルや核開発の問題、そしてより大きな要因として覇権奪取の野心を剥き出しにする中国の脅威の増大がある。日本は日米同盟を重要な抑止力として恃むが、同盟国アメリカは、オバマ政権下で内向き思考を強め、財政難で国防費の大幅削減を迫られている。

 新たな安保法制整備の意義は、この状況下で自衛隊の機能を弱めている、がんじがらめの規制を少し緩和し、米国との同盟関係をより緊密にして中国の脅威の増大に対処することである。今回明らかになったガス田開発の急拡大は、中国の帝国主義的脅威を目に見える形で私たちに示している。本来なら新安保法制の議論はこの危機的状況に基づいて行われるべきであろう。国民の理解を深めるためにも、このように私たちの眼前で進行している危機の情報こそ広く伝えられるべきだと思う。

官房長官会見と防衛相答弁をなぜ報じなかったのか


 中国による急速なガス田開発を国民に知らせないという点では、メディアの責任も大きい。特に朝日新聞の報道には疑問を抱かざるを得ない。

 私は7月6日の産経新聞でこの東シナ海の新たなガス田開発問題を報じたのだが、同日、菅義偉官房長官は定例記者会見で、「一方的な開発を進めていることに対し、中国側に繰り返し抗議すると同時に、作業の中止を求めている」と語った。プラットホームの数など具体的情報は明らかにしなかったが、中国が一方的に新たな開発を進めていることを認めたものだ。

 7月10日には、中谷元・防衛相が衆院平和安全特別委員会で、海洋プラットホームが軍事拠点化される可能性に関して、「プラットホームにレーダーを配備する可能性がある」「東シナ海における中国の監視、警戒能力が向上し、自衛隊の活動がこれまでより把握される可能性があると考えている」と述べた。国民の知らない内に中国が東シナ海を一方的に開発し、日本の安全保障に深刻な脅威を与える状況が生まれていたとの認識であろう。

 産経新聞と読売新聞は防衛相答弁を翌11日付朝刊の一面トップで報じた。中谷氏の答弁は、中国の脅威増大と密接にからむ新安保法制の審議中というタイミングからいっても、大きく報じる価値があるはずである。

 しかし、朝日新聞は、このいずれのタイミングでも中国の新たなガス田開発について報道しなかった。朝日が報じたのは、7日の自民党国防部会が、本年度の国防白書にガス田開発の記述がほとんどないとして了承を見送ったこと(八日付朝刊)と、衆院平和安全特別委員会で安全保障関連法案を可決した16日、自民党国防部会が改めてこの国防白書を了承したことだけである(同日付夕刊)。

 8日の記事では、「中国の東シナ海でのガス田開発についての記述がほとんどなく、安全保障法制に影響する」という部会長の佐藤正久議員のコメントはあるが、いつ、どんな開発がなされていたのかまったく不明である。16日になってようやく、中国は「13年6月以降…新たな海洋プラットホームの建設作業などを進めている」と書いたが、中谷氏も「日本の安全保障にとって新たな脅威になる」と指摘したプラットホームが持つ危険性には触れていない。これでは、朝日しか読まない人々は、東シナ海で起きていることやその脅威について全く知ることはできないのではないか。

 安全保障関連法は7月15日に衆院特別委で採決されたが、翌16日付の朝日新聞は朝刊一面で、「安保採決 自公が強行」というトップの記事の下に立松朗・政治部長が、「熟議 置き去りにした政権」とコラムで書いた。

 「熟議」は、あらゆる必要な情報が与野党双方に認識されていなければできないはずである。日本の安全、日本の空と海と陸をどう守るのか。国民の財産と安全をどう守るのか。日本国の安全保障を論じるとき、隣国が係争の海である東シナ海で進めている蛮行を考慮せずに、如何にして、まともな形の議論が可能なのだろうか。

 朝日が熟議に必要な情報を報道したとは到底、言えないのだ。南シナ海の軍事拠点づくりで世界中を震撼させた中国の脅威が東シナ海でも急速に増大していることを報じようとしない朝日新聞は、メディアとして、報じるべきことを報じてから「熟議」を求めるべきではないのか。