五郎丸が拝むのは不安があるから?

ラグビー練習試合ヤマハ-東芝 ヤマハ・FBの五郎丸歩選手=2015年10月30日、遠州灘海浜公園球技場(撮影・納冨康)
ラグビー練習試合ヤマハ-東芝 ヤマハ・FBの五郎丸歩選手=2015年10月30日、遠州灘海浜公園球技場(撮影・納冨康)

 そもそも、五郎丸がおがむのは、キックが入るかどうか不安があるからではないか? 不安を敵に見せるのは、真剣勝負の中では愚かな行為。ラグビーの試合中としては特別な、敵が攻撃を仕掛けてこない守られた時間だからできることとはいえ、本来は感情を表さず、できるだけシンプルな動作でゴールを目指す姿勢こそ「次元が高い」ことは、スポーツ・ファンならわかっておいてほしい。

 五郎丸は、拝む時の指のからめ方を進化させるより、何もしないで、ボールを置いたらサッと蹴る方向に進むのが本道だ。五輪予選決勝の中継で多くの人が目にしただろう、7人制のゴールキック。時間短縮のため、ボールを地面に置かず、両手で保持したボール地面に落としてショートバウンドで蹴る。両手がふさがっているから、拝めない。五郎丸ファンにはあっさりしてつまらないだろうが、こちらの方がスピードとテンポを重視する最近のスポーツの流れでもあるだろう。

 ただ、W杯の大舞台でもゴールキックの精度を支え、初めて見る日本人ファンの大半を魅了した「おがみポーズ」の効用も検証すべきだろう。
 脳科学の世界的権威で、イネの遺伝子完全解読プロジェクトを先頭に立って成し遂げた村上和雄博士(筑波大名誉教授)はいま「祈り」を生涯の研究テーマにされているという。季刊誌《どう》秋号の巻頭対談で、武術家の宇城憲治師範にこう語っている。

 「『祈り』というのは、『心』よりもっと深いところに根ざすもの。自分のことより他人のために祈る。世界の平和を祈る、というように、非常に広くて大きいんですね。そういう心が人間にあるんじゃないかと。それを魂と言っているんです」
 「祈りによって遺伝子は目を覚ます。本当に遺伝子にスイッチが入るんですね」

 もし五郎丸選手が、自分のキック成功のためでなく、日本ラグビーの未来のために祈って蹴ったとすれば、その魂がボールにこもった可能性はある。