遠くに飛ばす! 速い球を投げる! そこを求めると、どうしても力に頼る傾向が強くなり、野球が短絡的になり、ケガの危険も増す。野球の妙味はそこだけでないのは言うまでもない。今年、トリプルスリーが注目されて、オールラウンドな能力を持つ打者の魅力が見直された。ホームランを打つ長打力もありながら足も速い、粗い打撃でなく、やわらかさを持った打者。そういう打者こそが「王道」だと認識され、トリプルスリーを目指す野球少年が増えるのは素晴らしい未来につながると思う。
プロ野球日本シリーズ第2戦ソフトバンク対ヤクルト
ソフトバンク・柳田悠岐(左)とヤクルト・山田哲人
=10月25日、福岡・ヤフオクドーム (撮影・大橋純人)
プロ野球日本シリーズ第2戦ソフトバンク対ヤクルト ソフトバンク・柳田悠岐(左)とヤクルト・山田哲人 =10月25日、福岡・ヤフオクドーム (撮影・大橋純人)

 だが、現実は甘くない。トリプルスリーが二人同時誕生! と聞くと日本の野球が変わった印象も受けるが、今季の記録を調べてみると、球界全体の潮流がトリプルスリーに向かっているわけではない。山田と柳田が突出しているだけ、といってもいい。2013年に47盗塁、2014年には20盗塁、25本塁打、打率.293をマークした陽岱鋼(日本ハムファイターズ)や糸井嘉男(オリックスブルーウェーブ)らにもトリプルスリーの期待がかかっていたが、ケガや不振で今季は遠く及ばなかった。

 彼らは、トリプルスリーを目指したがゆえに、その壁にはね返された側面もあるかもしれない。いずれも高いハードル、とくにホームラン30本、30盗塁は、かなり意識を高く持って積み重ねていかないと、到達できない。

  山田はシーズンオフに、走れるスパイクをオーダーし、トリプルスリー達成に備えたと言われている。通常のスパイクの歯の数を変更した。かかとの歯を2本に減らし、爪先で走りやすい仕様に変えたのだという。重さも約50グラム軽くした。そうした準備が山田の場合は追い風となった。
プロ野球 日本シリーズ第2戦 ソフトバンク対ヤクルト シリーズ初盗塁となる二盗に成功するヤクルト・山田哲人= 10月25日、福岡・ヤフオクドーム (撮影・塩浦孝明)
プロ野球 日本シリーズ第2戦 ソフトバンク対ヤクルト シリーズ初盗塁となる二盗に成功するヤクルト・山田哲人= 10月25日、福岡・ヤフオクドーム (撮影・塩浦孝明)
 今季のプロ野球で、「10本塁打、20盗塁」まで基準を下げても、両方をクリアした選手は、山田、柳田以外にたった二人しかいないのだ。「10本塁打、21盗塁」の片岡治大(読売ジャイアンツ)と「13本塁打、28盗塁」の梶谷隆幸(横浜DeNAベイスターズ)。そもそも、20盗塁を記録した選手が、セ4人、パ3人、わずか7選手しかいない。最近の野球がいかにリスクを回避し、盗塁をしないかがこの数字からも窺える。

 今季の全盗塁成功数は1026個。全858試合だから、ファンは1試合平均約1.2回しか盗塁成功のシーンを目撃できなかった。さらに、規定打席に到達した54選手、いわばレギュラー・クラスの選手たちの盗塁数は459個。レギュラー選手が、野球でも最もスリリングな瞬間のひとつと言っていい盗塁を狙って走る姿は、ほぼ2試合に1回しか見られなかった計算になる。

 盗塁は、足のスペシャリストかまだ若くて元気な選手が出塁したときの楽しみに限定されているといってもいい状況だ。もっと走ってもらいたい、躍動する野球が見たい、と私は思う。トリプルスリーへの意識が高まり、少年時代からそこを目指す野球少年が増えることで、日本の野球がよりスリリングに、よりエネルギッシュに変わるとうれしい。