アップルの独自SIMの脅威


米国アップル社のApple SIMのページより
 昨年10月にアップルがApple SIMが付属したiPadを米国で発売した。ユーザーは購入後に、メニューから通信キャリアとデータプランを選ぶことができる。またAT&Tを選択したとき以外は、後で他の通信キャリアへの変更ができる。例えば、通常はSprintのデータプランを利用し、海外に出かけるときにはローミングサービスのGigSkyを追加して、その短期型のデータプランを購入することができる。

 SIMカードには、あらかじめ一つの携帯キャリアを利用するための、電話番号やIMSIという識別番号などの通信プロファイルが書き込まれている。このプロファイルを後から書き換えることができる、エンベデッドSIM(eSIM)と呼ばれる技術が携帯電話の業界団体で検討されてきた。これは主にSIMカードをあらかじめ組み込んでおく必要のあるIoT端末での利用を想定したものだ。

 小型化や部品点数の削減、そして防水性や耐久性のために、IoT端末には、スマートフォンのようなSIMカード用のスロット(差し込み口)を省いてSIM機能を組み込みたい。

 しかし、通信プロファイルが書き込まれたSIMカードを、利用者や仕向地ごとに複数の携帯キャリアから仕入れて製品に組み込んでいたのでは、生産の効率が非常に悪くなる。eSIMは、製品に組み込まれたSIMカードに登録されている通信プロファイルを、無線通信によって遠隔で書き換えて、携帯キャリアを変更することができるようになっている。

 SIMカードの通信プロファイルを遠隔で書き換えるには、サブスクリプション・マネージャー(SM)と呼ばれるシステムが必要になる。SMは、複数の携帯キャリアの通信プロファイルを管理し、指定された通信キャリアの通信プロファイルを無線通信によってSIMカードにダウンロードし、その通信プロファイルを有効にする。通信プロファイルを遠隔で書き換えるためには、無線でSMと接続する必要があるので、eSIMには少なくとも一つの通信キャリアのプロファイルが書き込まれている必要がある。

 Apple SIMの技術や仕組みについては明らかにされておらず、アップルはこの分野で独自のしくみの特許をいくつか申請しているので断定することはできないが、Apple SIMがeSIMと同様のものだとすると、最初に接続する通信キャリアのSMを利用しているのか、アップルがSMを持っているのかが気になるところだ。もし後者であるとすると、通信プロファイルを作成するための情報を携帯キャリアがアップルに提供していることになるが、現時点で携帯キャリアがそこまで妥協しているとは考えにくい。AT&Tだけを特別扱いしていることから、AT&Tから提供されたeSIMを使い、AT&TのSMに接続しているのかもしれない。

 アップルがこの領域にさらに踏み込もうとしているのは明らかだ。グーグルのProject FiというMVNO事業も(日本のMVNOの定義とは異なると思われるが)、すでにスプリントとT-モバイルの2つの携帯キャリアの回線を切り替える仕組みを持っている。携帯キャリアの恐れるネットワークのダムパイプ(土管)化は、すでにじわじわと始まっている。